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史実ありきでドラマを作る

――『いだてん完全シナリオ集』の演出家&制作統括座談会でも、(企画開発の)渡辺直樹さんが史実を調べて「いや、そこにはその人はいません」とアドバイスをしていたというエピソードが出てきますね。

宮藤 直樹さんは真面目な人だから、時々「お前黙ってろ」みたいな目でみんなに睨まれるんだけど、絶対主張を曲げない(笑)。「直樹さんそこにいたの? いないでしょ? じゃあわかんないじゃん、その人いたかもしれないじゃん。記録に残ってないだけで!」って、もうケンカみたいになって(笑)。

――渡辺直樹さんの力は大きかったと聞きました。

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宮藤 その通りです。渡された資料の中でも一番すごかったのは、1932年のロサンゼルスオリンピックの日本選手団の1日の流れの記録。何時に起きて何をしたか、練習の時間や記録会の時間、大横田勉(林遣都)が何を食べていつお腹を壊して、大横田をどうするかという会議がいつあったかまで。それを渡された時は、どうしようかと思った(笑)。

 

――脚本家としては、それを元にドラマを作っていかなくてはならないわけですよね。

宮藤 日本の新聞ではこういう風に報道されたけど、実際はこうだった、ということまで調べてあって……あれは本当に忘れられないですね。あまりにすごい資料なので、いまだにとってありますけど。前半は、金栗さんの伝記と日記くらいしか資料がなかったから、えらい違いですよね(笑)。

――自由度が高かったわけですね。

宮藤 そうなんです。

――今までの宮藤さんの作品とは史実ありきという所がまったく違いますよね。

宮藤 確かにそうですね。資料や原作があるドラマとオリジナルのドラマでは、頭の中の違う部分を使っている気がします。整理整頓は苦手なんですけど、資料や原作があるとうまくできる。オリジナルの脚本は、どちらかというと思いついた時にバーっと書きます。

 

金栗と田畑、2人の接点を作りたかった

――『いだてん』の中で宮藤さんが最も“仕掛けた”部分はどこですか。

宮藤 仕掛けのつもりだったということで言うなら、(27話の)金栗さんと田畑さんが会うシーンですね。あそこは史実ではなくて、完全にオリジナルです。

 最終話でも、スタジアムに田畑さんが来たのは史実なんですけど、2番目に金栗さんが来たというのは創作でした。2人の接点を作りたかったんですよね。ただ、後から知ったんですけど、東京五輪後に2人が一緒に写っている写真が実は存在していて、本当に接点があったみたいなんですよ。

 最終話でもう一つ変えたのは、実際は閉会式で松澤一鶴さん(皆川猿時)が「整列しなくていいからいっせいに」と送り出していたのを、松澤さんが「ちゃんと並べ!」と言っているのにみんないっせいに出てしまう、というふうにしたところ。実際は、松澤さんはドラマチックな効果を狙っていて、それが見事に功を奏したんですが、ドラマの中での松澤一鶴のキャラクターとのかねあいで変えました。