『いだてん』は歌舞伎の演目にできる?
イベントでは事前に募集した参加者からの質問をくじ引きで引いて答える企画もあった。
Q:スポーツには以前から関心がありましたか? またドラマ後に変化はありましたか?
宮藤 一般の人より関心は薄かったと思います。サッカーの話をされると、「なんで俺にサッカーの話するんだろう?」というくらい。
ただ、リオ五輪を実際に見て、「アスリートたちは4年に1度のこの場に、いろいろなものを賭けて来ているんだろうな」と感じたことや、“東洋の魔女”こと1964年東京五輪の女子バレーボールチームの資料に触れたことで「スポーツって、ドラマあるなあ」と感動しました。この年齢でそういうことを知ることができたのはよかったと思います。
Q:今回の大河では中村勘九郎さんが主役の1人でしたが、『いだてん』を歌舞伎の演目にすることは可能だと思いますか?
宮藤 どうかなあ。でも、『ナウシカ』も歌舞伎になってますからね(笑)。なんでも歌舞伎になる時代なんじゃないでしょうか。
歌舞伎役者のすごいところは、1人で子供から老人まで、男も女も演じるところ。勘九郎くんの最終話の老け役は本当に見事でしたね。一番びっくりしたのは、最終回の撮影であの老け役を演じた後、(代役で撮り直しとなった)ハリマヤのシーンの追加撮影でもう一度18歳にもどって、「なぁし走るとですかね」というセリフを言ったとき。モニターで見ていると本当に18歳に見えるんですよ。阿部サダヲくんより10歳以上若いんだけど、はるか年上の老人まで演じることができる。
そういえば、三遊亭圓生さんの配役で、中村七之助くんの名前を挙げたのは僕なんですよ。さっきの北島康介さんの話もそうですけど、僕はキャスティングセンスに自信がないので、人の意見に乗っかることが多いんですが、今回、七之助くんは僕が候補に挙げました。
Q:登場の効果を最大限に演出した人物はいますか?
宮藤 むしろ逆に、登場が浮いてしまわないように、前畑秀子(上白石萌歌)を早い段階で出したのは狙いましたね。人見絹枝(菅原小春)がラジオで次の世代の女性たちへ、「日本の女性が世界に飛び出す時代がやってきたのです」とメッセージを送るシーンで登場させました。前畑秀子の出番はずっと後なんだけど、少女時代の前畑を出しておいた方がいいんじゃないかと思って。
脚本段階の形でシナリオブックを出版
Q:ミルクホールで四三とシマが会話するシーンで、シナリオでは三島弥彦(生田斗真)について2人が頻繁に触れているのですが、放送ではことごとくカットになっています。
宮藤 三島弥彦はアントワープで金栗四三を訪ねるので(20話)、そのシーンを印象づけるために編集段階でカットになったのかもしれない。基本的にシナリオが僕の手を離れたら、完成映像を見るまで僕に連絡は来ないので、どこをカットするかというのは僕にはわからないんです。
かつては、放送されたバージョンでシナリオブックを出版していたんですけど、ある時から、僕の書いた脚本と放送を読み比べることができた方がいいんじゃないか、逆にそれで演出サイドの良さも分かるのではないかと思って、「決定稿」と言われる脚本段階の形で出版しました。特に今回の青い第2部の方は、そういった脚本と放送の違いが分かりやすい部分が多いのではないかと思います。
トークイベント終了後は、宮藤官九郎が参加者一人一人のサインに応じた。すでに大人計画の舞台脚本の執筆に入り、また俳優として野木亜紀子脚本のドラマ『コタキ兄弟と四苦八苦』の撮影も始まっているという多忙の身でありながら、驚くほどゆっくりと一人一人のファンと会話する彼は、この歴史的な大河ドラマの最後の余韻を楽しんでいるように見えた。
写真=石川啓次/文藝春秋