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『超限戦』に書き加えたいと思っていたこと

 ここから、「どこにテロリズムの根源があるのか」「何がテロリズムをもたらしているのか」という問題が出てくる。民族、文化、宗教、価値観の違いによって、こうした問題に対する解答も異なる。だが解答がどのようなものであれ、テロリズムは、強い集団に圧迫され日増しに瀬戸際に追いやられている弱い集団の絶望的なあがきである、という事実を抹消することはできない。もしわれわれがみなこの点を認めることができるなら、次の結論――テロリズムに対し国家的暴力式の打撃を与えるだけではとても不十分だし、問題を根本的に解決することにもならない――を同様に認めることができるであろう。

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 テロリストがどんなに人を驚かす事件を起こしても、グローバル化の列車は相変わらずビューッとうなりをたてて前に進んでいく。一瞬ブレーキをかけたり減速しても、ほとんど既定の軌道を変えることはない。われわれはみなこの列車の乗客である。列車の進行方向が正しいかどうか、列車自体の性能が安全で頼りになるかどうかは、われわれ1人ひとりにかかわっている。同じ列車に乗っている以上、片一方だけの安全など存在しない。安全は共通のものであり、全員一体のものである。このことは、たとえ列車長にせよ、自分の安全を多くの乗客の安全よりも優先させることはできないということを意味している。とくに、列車長は乗車している1人ひとりの乗客をうまくもてなすことが必要だ。われわれは、乗客の誰かが絶望感から、列車とともに滅びる気持ちを抱き、捨て鉢になるのを許してはならない。なぜなら、このことは翻って言えば、私たち自身の命に危険をもたらすからである。

 このことこそ、“9・11事件”後、私たちが『超限戦』の中に書き加えたいと思っていたことである。

超限戦 21世紀の「新しい戦争」 (角川新書)

喬良,王湘穂

KADOKAWA

2020年1月10日 発売