長女の枕元に現れた“亡き母”
ある夜、長女が寝ていると、枕元に人の気配を感じました。きょうだいの誰かが気にして見に来たのかと思ったそうですが、それは違いました。
長女の枕元にいたのは、紛れもなく亡くなった母親だったのです。彼女は「お母さん!」と、とっさに声を出しました。すると母親は「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝って来たといいます。
そして続けて“不思議なこと”を口にして、母親は消えました。長女が次に目を覚ますと、すでに朝でした。夢のような現実のような、不思議な記憶……。しかし、母親が自分に伝えた事ははっきり覚えている。そこで彼女は早速きょうだい全員を呼び出し、昨晩の出来事を話しました。
「私たちが助かる方法があるかもしれない。だから手伝ってほしい」
長女は母親から“きょうだいが助かる方法”を聞いたといい、それを実行しようと相談しました。そして、私の祖母・くに子を含め、みんなでそれに従うことにしました。
海面に100枚の和紙を浮かべて……
彼らはまず村中から和紙を集め、それらを短冊状に100枚切り分けました。そして短冊の1枚ずつに、長女が筆で“言葉”を書いていきました。それらは全て同じ言葉だったようなのですが、漢字も混じっており、当時のくに子には読めなかったそうです。
100枚全てを書き終えると、彼らはそれを持って、日本海にある海岸を目指しました。そこは長女が唯一、父母と遊びに来た事がある思い出の海岸でした。
到着すると長女はひざ下まで海に入り、和紙を海面に浮かべました。和紙100枚が沈むこともなく、波間に揺られたそうです。
やがて長女は海から上がり、きょうだいたちの所へ来て「お母さんがこれで助かるからって」――そう言って、海面に浮かぶ和紙を眺めました。
きょうだいみんなでその和紙を、少しの間見守りました。すると風が止み、押し波もなくなり、時間が止まったような不思議な感覚になったそうです。そのとき、バラバラに浮かんでいた和紙が徐々に、横一列になっていきました。そして綺麗にまっすぐ並んだかと思うと、一斉に沖へと吸い込まれるように消えていきました……。
そんな光景を目にした後、途端に風が吹き、波もたち、時間の感覚が戻ってきました。くに子は、きょうだい全員がこの不思議な体験をしたと言います。そしてともあれ、日が暮れる前にみんなで家に帰る事にしました。