「私は人に忠誠を誓わない」
一方、“大虐殺”といわれた人事にも関わらず当の尹検事総長は淡々と捜査を進めており、人事発表があった翌々日にも青瓦台の家宅捜索を指示した。もっとも、これは青瓦台が拒否し、これについても青瓦台、さらには文大統領へも非難の矛先が向いている。
曺国前法相を追い込んだことで2019年の“顔”ともいわれた尹検事総長の名が広く知られるようになったのは朴槿恵前大統領時代の2013年だ。
前年12年に行われた大統領選挙で国家情報院が「ツイッター」を使い、特定の政党を支持、または批判するなどして世論を操作しようとしたことが発覚。この捜査の指揮を執ったのが尹検事総長(当時特別捜査チーム長)だった。しかし、雑誌記者によると、「捜査過程で『ゆっくりやれ』という上層部の指示に反し、捜査を進行したため」、「捜査過程で上への報告が漏れた」などの理由から1カ月の停職処分に。
その後、当時の国務総理・黄教安現自由韓国党代表と当時のソウル地方中央検察庁長から捜査へ圧力があったことを国政監査の席で暴露し、大邱に飛ばされた。その席で言い放った「私は人に忠誠を誓わない」という言葉は今でも語り草となっている。
2016年秋に崔順実氏による「国政介入事件」が起きると、特別捜査チーム長として呼び戻され、第一線に復帰した。文在寅政権では、朴槿恵政権を追い詰めた“功”が認められて、ごぼう抜きでソウル中央地方検察庁検事正に異例の抜擢。そして、文大統領が推し進めた「積弊清算」では朴前大統領周辺を次々と起訴に持ち込んだとして、昨年7月には検察トップのソウル検事総長に任命された。
しかし、「文政権は、尹検事総長が朴前政権を追い詰めたことで、自分たちの側だと勘違いしたわけです」と別の中道系紙記者は言う。記者が続ける。