これは以前にも別の連載で本稿の序論だけ言及したことがあるのだが、阪神の大和については「レギュラーにするのは“もったいない”」という、プロ野球ならではの考え方もあるという。知人のプロ野球OBからそれを聞いたとき、私はおおいに膝を打った。野球選手の格付けにおいて「レギュラー>控え」という思い込みが覆された瞬間だった。

内外野どこでも驚異的な守備力を誇る名手

 ご存知、今季プロ11年目となる大和は阪神が誇る守備の名手だ。超人的な身体能力を生かした彼の守備力は、内外野どこのポジションを担っても存分に発揮される。プロ入り時は内野手だったため、ショートやセカンドの守備に定評があるのはもちろん、2014年に外野手として自己最多の130試合に出場すると、そこでもゴールデングラブ賞を獲得したのだから恐れ入る。同年のクライマックスシリーズや日本シリーズでの外野手・大和の活躍は特に印象的だった。あのスーパープレイの数々は、今も私の目に焼き付いている。

 だからこそ、「大和を常時スタメンに固定するべきだ」という内外からの声はちらほら聞こえてくる。ただでさえ今季の阪神は守備力が課題とされているのだから、そこを強化するためには大和をショートやセカンドに固定する策はあるだろう。

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 しかし、現実の大和は今も首脳陣からレギュラー扱いされていない。たまにスタメン出場することはあるものの、基本的には守備固めも含めた万能のスーパーサブだ。

 彼がレギュラーになれない理由は、“一般的に”打力が弱いからだと認識されている。今季からはスイッチヒッターに転向し、ここまでは少ない打席数ながら高打率をキープしているが、常時スタメンとなれば話は変わってくるだろう。

阪神が誇る守備の名手である大和 ©文藝春秋

レギュラーにするのはもったいない? 優劣の逆転現象

 そんな中、冒頭の「レギュラーにするのはもったいない」という考え方を耳にしたのである。なんでも、長いペナントレースを戦うプロ野球においては、どんな突発的な有事にも高いレベルで対応できる大和ほど頼りになる存在はいないという。多くのポジションにおいてスタメンの誰かが故障しても、大和がベンチにいれば穴を埋められるからだ。

 確かに、これほどまでの万能選手であれば有事における究極のジョーカーとしてベンチに待機させておいたほうが得策だという理屈もわかる気がする。また、もしも大和をスタメン出場させて試合途中で代打を出したら、それはすなわち「守備ゆるめ」になってしまう。試合終盤でリードを守りたい場面が訪れても、守備固めができなくなる。

 一般的に野球選手の地位は「レギュラー>控え」だろうが、大和においては「控え>レギュラー」という優劣の逆転現象が成立する。金本監督が実際にどう考えているかはわからないが、大和がレギュラーになれないのは必ずしも打力だけが原因ではないのかもしれない。繰り返すが「レギュラーにするのはもったいない」である。この極端な言説に説得力を感じるほど、彼の守備力は図抜けているわけだ(たまにエラーもするけど)。