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発禁、監視、出国禁止……それでも中国の“反体制派作家”が「共産党独裁政権の崩壊」を恐れる理由

「この政権以外には、今日の中国社会を調整し、統合する勢力がない」

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「5年後、10年後、20年後の中国は、一体、どうなっているのでしょうか。

 中国の未来を予測することは最大級の難問です。この上なく不安定な要素を抱えているからです。

 その不安定要素とは、『中国共産党による一党独裁』に起因するものです。これこそ中国の未来にとって最も中核的な問題となるでしょう」

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 こう語るのは、中国の作家で民族問題研究者でもある王力雄氏だ。

“史上最強の監視社会”を築く習近平 ©共同通信社

著作は大陸中国で発禁扱いになっている

 王氏は、1953年、中国・長春市生まれ。78年、文革後最初の民主化運動「民主の壁」に参加し、94年には中国最初の環境NGO「自然之友」を立ち上げた。

『漂流』『溶解権力』『天葬』『ダライ・ラマとの対話』『逓進民主』など多数の著作があり、『黄禍』『私の西域、君の東トルキスタン』(いずれも集広舎)『セレモニー』(藤原書店)は邦訳されている。冒頭、新宿歌舞伎町の風俗店から始まる近未来小説『黄禍』は、香港誌『亜洲週刊』で「最も影響を与えた20世紀の中国語小説100冊」にも選ばれている。『セレモニー』も中国の今後を考える近未来小説だ。

中国の近未来を描いた『黄禍』

 王氏は、ノーベル平和賞受賞者・劉暁波の友人で、妻はチベット人作家のツェリン・オーセル。現在、北京在住だが、当局の監視下にあり、出国を禁じられ、著作は大陸中国で発禁扱いとなっている。

共産党独裁政権の「崩壊」こそ恐ろしい

 このような王氏にとって、共産党独裁政権は、まさに“仇敵”だ。だが、王氏が最も恐れているのは、むしろ、その共産党独裁政権の「崩壊」なのだという。

「この政権以外には、今日の中国社会を調整し、統合する勢力がないからです。

 政治的反対派、対立するイデオロギー、党でなく国家に属する軍隊、宗教、市民社会といった、まっとうな社会には必ずあるはずの組織的勢力や統合メカニズムは、一掃されるか、圧政下で育ちようがありません。社会統合勢力としては、中国共産党政権があるばかりです」