今年開催なのに、いまだ悪評が絶えない東京オリンピック。先日も、日本オリンピック委員会(JOC)の「がんばれ!ニッポン!全員団結プロジェクト」が、国民全員に五輪への参加を強要していると批判され、炎上した。
なるほど、そのネーミングセンスは戦前並だったが(ちなみに、北朝鮮にも「一心団結」という有名なスローガンがある)、それ以上に、公式サイトに掲載された「ポエム」が強烈だった。
それは、「みんなが待ち望んだ、東京2020オリンピック」という虚偽の前提にはじまり、「じっとしていても、何もはじまらない」「オリンピックに参加しよう」と呼びかけ、「あなたの中で何かが変わる」「ものすごい力が生まれる」という謎の精神論に展開したうえで、「心をひとつに、全員団結! さあ、いくぞ。がんばれ!ニッポン!」との叫びで締めくくられているのである。
戦時下の「動員ポエム」を思い起こさずには……
実質的には動員の呼びかけなのだが、自発的な参加をたくみに偽装している。筆者は、これで戦時下の「動員ポエム」を思い起こさずにはおれなかった。
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敵アメリカの戦意と戦力は頂上に達してきたぞ
我々はどうだ
今年こそは生やさしい年ではない
坐して戦ひに勝てようか
心も物もなほ一層締めてかゝるのだ 誰が
それは僕なのだ、君なのだ、あなたなのだ
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政府広報誌と「動員ポエム」
上掲の「動員ポエム」は、『写真週報』1943年1月6日号の「時の立札」に掲載されている。
『写真週報』は、日本政府が発行した週刊のグラフ誌である。日中戦争下に創刊され、アジア太平洋戦争時には平均約30万の部数を数えた。
その狙いは、1938年2月23日号の「映画を宣伝戦の機関銃とするならば、写真は短刀よく人の心に直入する銃剣でもあり、何十万何百万と印刷されて散布される毒瓦斯(ガス)でもある」との一文によくあらわれているとおり、プロパガンダだった。
「時の立札」は1941年11月5日号よりはじまった表紙裏のコーナーで、はじめはニュースを載せていたが、アジア太平洋戦争の開戦を受けて間もなく、このようなポエム――本稿はこれを「動員ポエム」と呼ぶ――をほぼ毎号全面に掲示するようになった。
政府は、「時の立札」のページを切り取って、学校や役場の掲示板に張り出すことを推奨した。
このため、当時のひとびとは「動員ポエム」を常に目にしたわけだが、通して見ると、その本質が浮かび上がってくる。それは、日本の問題点がかえって露呈していること、これである。