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【高校サッカー】日本から留学生選手がいなくなる? 悩める監督とサッカー協会に聞いてみた

2020/01/22
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東日本大震災で被害を受けた渋谷幕張にやってきたのは……

 2011年の東日本大震災時、千葉市の沿岸部にある渋谷幕張高の学校施設やグラウンドも、液状化現象の被害を受けた。その応急措置が終わり、ようやく生徒たちに通常の学校生活が戻った頃、マルコス氏のもとに当時名古屋でプレーしていた闘莉王から連絡が入った。

「『サッカー部の練習に顔を出したい』と言うんです。その時、彼は負傷後のリハビリ中で、かつて在籍していた水戸まで震災見舞いに行った後、念のため浦和時代のチームドクターにも患部を診てもらうことになっていました。そこで、せっかく関東に来ているのだから、渋幕を訪れたいと伝えてきたんです」

 約束通り、闘莉王はまだ震災の爪痕が残る渋幕にやって来た。そして、ただ来ただけではなかった。

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「私の担当だった6限目の体育の卓球の授業から飛び入り参加したんです。生徒たちが大はしゃぎするもんだから、授業になんかなりませんでした」

2019年シーズン限りで現役引退した闘莉王は、昨年末ブラジルに帰国する直前にも、渋谷幕張高を訪れている。その日、学校中の教員が集まる職員会議が行われることを恩師のマルコス氏に確認した上でやってきて、教員たちの前で「今の僕があるのは、この学校のおかげです」と挨拶をしたという。写真は、渋谷幕張高訪問の際、現在同高サッカー部に在籍している3人のブラジル人留学生と記念撮影を行った闘莉王。左端がマルコス氏(写真提供:宗像マルコス氏)

 その放課後、彼はわざわざ名古屋のトレーニングウェアに着替えてサッカー部の練習に合流した。

「部員たちにしてみたら、憧れの先輩が所属するプロクラブのウェアを着て一緒にボールを蹴ってくれるんだから、もう感激です。いや、部員だけじゃありません。学校中の生徒が鈴なりになって、グラウンドの外から見てましたよ。闘莉王はまだ完調じゃないというのに軽く流したりせず、競り合いでスライディングまでやる入れ込みようでした。そして部の練習が終わると、あいつは私に『今日はみんなの元気な姿が見られてよかったです』と言い残して帰っていったんです」

 自らもリハビリ中でありながら、母校を思う気持ちから遠路はるばる後輩たちを励ましにやってきた闘莉王の心遣いに、マルコス氏は我が教え子ながら「やられたよ……」と感じ入ったのだという。

 日本の学校の一員としてボールを蹴った日々を、闘莉王は今もかけがえのない記憶として、胸に刻んでいるようだ。

 しかし、元留学生選手と母校とのこうした幸せな関係が育まれる可能性は、2021年度を限りに消滅してしまうのである。

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