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 渋幕は開校以来、留学生を積極的に受け入れている。特にサッカー部には87年以来、マルコス氏が母国でのコネクションを生かして数百人という候補の中から選考するブラジル人留学生選手が、継続的に在籍してきた。その数、現在まで計26名。闘莉王やサンドロ(元ジェフ市原、FC東京)など、卒業後にJリーグクラブへ入団した選手も多い。

田中マルクス闘莉王 ©文藝春秋

 そんなマルコス氏に、同高での留学生選手の実情と、今回のJFA決定について思うところを聞きたいと思ったのだ。

全国から相談が寄せられるマルコス氏の苦悩

 マルコス氏が取材に訪れた私を案内してくれたのは、渋幕の図書館奥にある一室だった。ガラスの壁を隔てたすぐ向こうには、各国からの留学生たちが日本語の補習を受けている。その日、会うなりマルコス氏は「このところ留学生選手を抱える全国のサッカー部の監督から、電話がひっきりなしにかかってくるんですよ」とため息をついた。「来年度以降、JFA決定にどう対応すればいいのか」と、留学生受け入れ実績が豊富なマルコス氏のもとに相次いで相談が寄せられているのだという。

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――そもそも、渋幕が留学生の受け入れに力を入れているのはなぜなんでしょう。

「『国際人としての資質を養う』が、設立理念のひとつなんですよ。身近にいろいろな国からの生徒がいて、日頃から接することができれば、それは国際人になる近道じゃないですか」

――ブラジルからの留学生選手は、どんな高校生活を送っているんですか。

「他の日本人の生徒と同じですよ。現在サッカー部には3人のブラジル人留学生がいますが、彼らはみな、朝のホームルームから教室にいて、日直だって回ってきますし、放課後の掃除までやります。その後、サッカー部の練習に参加するわけです。渋幕の留学生は1年間の短期が主なのですが、サッカー部のブラジル人留学生は3年間在学し、渋幕の生徒として卒業していきます」

――サッカー留学で来日した18歳未満の選手が公式戦に出場できなくなるというJFA決定を知って、どう思われました?

「国際サッカー連盟(FIFA)が18歳以下の選手の国際移籍を禁じる規則を定めているのは、私も知っています。しかしその決まりは、才能ある若い選手がまるで人身売買のように欧州のビッグクラブへ売り飛ばされていた状況に歯止めをかける目的で作られたはず。教育を受けるために海外からやってきて、学校の部活動としてサッカーをやっている選手にまで、なぜ適用されるんでしょうか? まともな学校であれば、留学生として来日させる見返りとして、その選手の家族に金銭を渡すような真似などするわけがない」