「社交ダンスは流行りましたね。気の合った仲間同士で自然発生的にブルース、ワルツ、ルンバ、ジルバも楽しみました。僕の班では班長さんが群馬県の沼田出身で、尾瀬に詳しいので尾瀬に行くことになって。すると奥山の班がそれを聞いて、すぐその後、尾瀬に行ったり。
あと山岳部もあった。丹沢縦走を計画してそれには奥山も参加していました。そうしたら、先頭が道を間違えて彷徨っちゃって。全員が帰って来ない。翌日、会社で問題になりました。一夜を明かして翌日、ちゃんとしたコースを降りて無事に帰って来ましたけど。寒かったのでみんなで背中を合わせて暖を取ったり。ひとりが沢に降りたまま動けなくなって、何人か付き添いで泊り込んだり。よほど不安だったのでしょう、みんなが幻影を見たとか、変な化け物が出て来たとか……(笑)。すごく自由でした。残業しないと喰えないような給料でしたけど、何よりも若さですよね。仕事も遊びも一生懸命」
人間、そして生きとし生けるものすべての個性と権限を尊重し、命の尊さを謳った名作『太陽の王子 ホルスの大冒険』。高畑監督をピラミッドの頂点に据えたその製作現場も、若さと生きるエネルギーに溢れた『ホルス』ワールドそのものだったのだ。そのクリアで繊細な映像を劇場やDVD、Blu-rayにシネマ・コミック等で今こそ改めてご堪能いただきたい。
小田部羊一(こたべ・よういち)
1936年台湾台北市生まれ。東京藝術大学美術学部日本画科卒業後、’59年に東映動画株式会社へ入社。長編『太陽の王子 ホルスの大冒険』などで原画を担当。『空飛ぶゆうれい船』(’69年)で初の作画監督を務める。’71年高畑勲、宮崎駿とともに東映動画を辞し、『アルプスの少女ハイジ』(’74年)、『母をたずねて三千里』(’76年)でキャラクターデザインを手がける。『風の谷のナウシカ』(’84年)では原画で参加。’85年、任天堂株式会社に入社。『スーパーマリオブラザーズ』などのキャラクタービジュアルデザインを担当。現在、日本アニメーション文化財団理事ほか多数の役職を務めつつ講演や後進の指導、展覧会等精力的に活躍中。著書に『小田部羊一アニメーション画集』(アニドウ・フィルム/2008年)がある。