「山がなくなった……」

 千葉市に住む海老原裕美さん(62歳)が、80代の母親を連れて3年ぶりに宮崎市へ帰省したのは2016年夏のこと。墓参の帰りに所有している森林を見に行った時、母親がこう絶句したという。

 郊外の国道に面して森林が続く中、2人の目の前には、乱暴に伐採されたハゲ山が広がっていた。

ADVERTISEMENT

伐採業者が初めて逮捕された被害現場(筆者撮影)

「私が生まれた祝いに父親が植えて、大きく育っていた200本の杉がすべて伐(き)られていました」(海老原さん)

 海老原さんが地元の友人に相談するなどして調べると、他に12家族が同様の被害に遭っていたことが分かった。しかも、警察署へ行っても被害届を受け取ってもらえず、泣き寝入りしていた家族ばかり。海老原さん自身も、当初は警察が被害届を受理してくれなかった。そこで被害者の会を設立し、闘いをはじめる。

情報公開で明らかになった汚い手口

 突破口を開いたのは情報公開だった。

 森林を伐採する際は、森林所有者の承諾を得て伐採業者が自治体に「伐採届」を出し、自治体は所有者に「伐採通知」を郵送する。海老原さんが宮崎市役所に請求して伐採届を入手すると、所有者の欄には、10年以上前に亡くなった父親の名前が記入されていた。伐採届が偽造されていたのだ。しかも、父親に伐採通知を郵送しても届くはずはなく、郵送と返送を3回繰り返した末に宮崎市役所が放置していたことも分かった。

 一方で、他の被害者が情報公開請求すると、伐採届が「不存在」という回答も多く返ってきた。

「所有者の承諾を得て伐採届を出した業者が、隣接する他の所有者達の森林を無断伐採していたことが分かりました。所有の境界は境界杭などで示され、プロの伐採業者が見誤るはずはありませんし、伐採届を出した面積の10倍も20倍もの森林を無断伐採している。それでも、無断伐採が見つかると、伐採業者は『境界を見誤ったための誤伐だった』と主張し、許されて来たのです」(海老原さん)

背景は木材価格の低迷か

 戦後、木材需要の伸長を背景として、政府は杉の植林を奨励し、全国で膨大な数が植えられた。現在、これらの杉は50年、60年を経過して大きく育ち、伐採期を迎えている。

©iStock.com

「近年、外国産に押されて国産の木材価格が低迷し、杉1本が1万円程度。伐採業者が所有者に対価を払って伐採していては採算が取れなくなりました。そこで、高齢化した社会的弱者の森林や、相続した子供が県外在住で見に行けなくなった森林などを狙い撃ちして、無断伐採して木材市場で売る“盗伐”が横行しはじめたと見られます」(地元記者)

 被害者の会は情報公開を通じて被害を確定し、警察に何度も通って被害届を次々に出しはじめたが、中には信じがたい話が出てきた。