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もしも太宰治がカップ焼きそばを作ったら? 天才的なバカ本はこうして生まれた

『もし文豪たちが カップ焼きそばの作り方を書いたら』著者インタビュー#1

genre : エンタメ, 読書

――悪ノリになっては面白くないし、センスが試されますよね。

神田 取り上げたのは一人一人に熱狂的なファンがついている作家ばかりだから、生半可なものは書けないぞと、すごく怖かったんです。書いているときは不安だけでしたね。これ書いて許されるかなとか、ずっと思っていました。だから茶化すだけでなくて自分がちゃんと知っている、好きな作家から書いていきました。

 

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太宰 治
Osamu Dazai
小説家 日本 1909~1948

焼きそば失格

【第一の手記】

 申し上げます。申し上げます。私はお腹が空いてしまいました。このままでは得意のお道化芝居もままなりません。空腹に耐えかね、私は台所の戸棚を出鱈目(でたらめ) に開けました。

 これは、ヘノモチン。

 これは、パビナール。

 これは、カルモチン。

 うわっはっは、と私は可笑(おか)しくなりました。これは真っ当な人間の生活ではありません。

【第二の手記】

 私は賭けに出て、最後の戸棚を開きました。カップ焼きそばがありました。

 カップ焼きそばは、まずお湯を入れなければいけません。私に立ちはだかったこの敢然たる事実は、私を湯の沸騰へと向かわせました。

 点線まで蓋(ふた)を開け、かやくを振りかけて、お湯をかける。そうれ、俺ならできる。自分で自分を鼓舞しながら、私はお湯を注ぎ込みました。

 私に湯切りをする資格があるのでしょうか。きっと、あるのです。あるはずなのです。

「許してくれ」

 そう呟(つぶや)きながら、私はお湯を捨てました。

【第三の手記】

カップ焼きそば。

よい湯切りをしたあとで一杯のカップ焼きそばを啜(すす)る。

麺から立ち上る湯気が顔に当たってあったかいのさ。

どうにか、なる。

(『もし文豪たちが カップ焼きそばの作り方を書いたら』より)

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菊池 ぼくもリストアップしたのは、好きな作家や今まで読んできた作家ばかりですね。でも意外と杞憂で、特に書店員さんが面白がってくれて。それで気持ちが楽になりました。