文春オンライン

「人類の未来は決して暗くない」世界注目のハーバード大学教授が喝破する“ジャーナリズムの罪”

私たちはなぜ「世界の進歩」に気が付かないのか?

note

「我々は未来について楽観主義になるべきでしょう」

 そう語るのは、ハーバード大学心理学教授のスティーブン・ピンカー氏だ。 

 国内では、崩壊する年金制度や人口減少、移民の受け入れなどの問題が山積し、国外に目を向けても、異常気象や緊迫した国際情勢が待ったなしの状況――現状をそう捉え、絶望している人々は多いだろう。

ADVERTISEMENT

 しかし、こうした希望のない評価に対して、「それは『地球は平らだ』と主張するくらい、全くの誤りだ」とピンカー氏は断言する。

スティーブン・ピンカー氏 ©大野和基

なぜ人は“科学による進歩”を正しく認識できないのか?

 進化心理学の第一人者であるピンカー氏は、2004年にタイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に、2005年にはフォーリンポリシー誌の「知識人トップ100人」に選ばれた。米国科学アカデミー会員で、『アメリカン・ヘリテージ英語辞典』の語法諮問委員会議長も務めている。また、2011年に刊行した『暴力の人類史』では、人類史を通じて暴力が確実に減少したことを、データを基に立証して話題となった。最新刊の『21世紀の啓蒙 理性、科学、ヒューマニズム、進歩』では、現代にはびこるシニシズムを危惧し、「進歩」への信頼を説いている。

 我々が未来に期待できる根拠について、ピンカー氏が語った。

最新刊『21世紀の啓蒙』(草思社)

「データを見れば、人類を取り巻く環境が良くなっていることは自明です。18世紀中ごろには29歳だった平均寿命は、今や71.4歳に延び、食糧状態についても、1960年代には1日1人当たり約2200キロカロリーだった摂取量が、現在では約2800キロカロリーです。また、世界総生産は200年でほぼ100倍と、富も増えました。

 インフラや政治形態も改善しています。特に先進国では、清潔な水が蛇口から流れ、権力者を批判しても投獄されない民主主義の下で暮らすことができる。さらに、機械化が進み、世界の知識を小さな端末で持ち歩けます。

 しかし、“世界はどんどん悪くなっている、未来は暗い”という認識が広がっています。人はなぜ理性や科学による進歩を正しく認識できないのでしょうか」

 その理由としてピンカー氏は、「ジャーナリズムの責任」を指摘する。