花の大正ロマンを描いた国民的人気少女漫画『はいからさんが通る』が宝塚の舞台で甦る。2017年に、シアター・ドラマシティと日本青年館で上演され、乙女心をガッチリつかんだ舞台の再演である。初演と同じく、伊集院少尉役は、花組トップスター、柚香光さん、ヒロインの花村紅緒役は、現トップ娘役の華優希さんが演じる。新トップコンビのお披露目公演で、漫画が原作、大劇場以外で上演された作品が再演されるのは異例中の異例だという。原作者の大和和紀さんは、次のように語る。

大和和紀さん

「大劇場公演が実現して本当に嬉しいです。初演当時、柚香さんはトップではなかったので、まさか再演があるとは思いませんでした。これまで『はいからさんが通る』は、アニメや映画、ドラマになりましたが、その中でも一番いい出来です。とにかく脚本がすごい。短い上演時間の中で、物語の全編にわたってエピソードを入れるのは無理だろうと、最初はあまり期待していませんでしたが、よくぞここまで! というくらいすばらしい舞台を作り上げてくれました。

 今回は、大劇場公演ということで、構成を少し変えています。たとえば、少尉のエピソードを増やして、彼の内面を掘り下げ、人間的に重みのある役になっています」

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 宝塚の“原作へのリスペクトが半端ない”舞台だという。

「ポスターの背景は脚本の小柳奈穂子先生が、自分で漫画の中の名場面をコピーして、はさみでチョキチョキと切って、それを並べてラフを作ったと聞いて驚きました。宝塚のポスタービジュアルの中でも画期的なのではないでしょうか。

 初演は30人程度でしたが、今回は80人出演するので舞台は豪華。伊集院家もにぎやかになりますし、シベリアのコサック兵も増えます(笑)。花組のみなさんの、『前の作品が楽しかったから、また楽しくしようね』っていう雰囲気が伝わってくるようです」

 連載時の1970年代といえば、少女漫画を取り巻く環境の変革期でもあった。

「同年代の少女漫画家が次々と有名な作品を描き、全盛期を迎えた時代です。私は、自分が描きたい世界を追求するタイプの漫画家ではなく、それよりは自分の楽しいと思っていることをみんなに『よかった、面白かった』と言われることがいちばんうれしいタイプ。悩みながらそのことに初めて気が付いた頃に描いたのが『はいからさんが通る』でした。

 漫画を描き始めた15歳のころは、忍者ものなどの少年漫画を描いていました。最初は『面白いね』って言ってくれた女子の友だちもだんだん反応が悪くなって、やっぱり少女漫画を描かないとダメだと悟った。そんなとき、たまたまテレビで宝塚の『シャングリラ』(脚本・菊田一夫)を観たんです。それがすごく面白かった。内容を全部記憶しておいて、漫画にしてノートに描いたものを友だちに見せたらとてもウケた。『続きは、続きは?』って(笑)。これが少女漫画を描いた初めての経験です。少女漫画を描くことをインスパイアしてくれたのが宝塚。だから宝塚には恩があるんです」

 時代を超えて多くの読者を魅了してきた大和さんと宝塚の共通点とは?

「宝塚作品には女性が好きな要素がすべて込められています。私の作品も、『はいからさんが通る』の紅緒は美人でもなく、才能があるわけでもなく、モテない。そんなつまらない自分でも、なぜか愛してくれる人がいる、って女の子の理想じゃないですか。宝塚も女の子の夢をすべて詰めこんでいますよね。大正時代を舞台にした歴史ものですが、恋愛を軸にすれば、どんな時代設定でもファンは喜んでついてきてくれるんです」

やまとわき/1948年北海道札幌市生まれ。『はいからさんが通る』、『あさきゆめみし』をはじめ今もなおベストセラー作品を世に送り出している。

INFORMATION

宝塚歌劇団 花組公演『はいからさんが通る』
https://kageki.hankyu.co.jp/revue/2020/haikarasangatooru/index.html