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デビュー15年目 向井理が憧れる“昭和の名優”「セリフ一つで、いくらなんだろうって」

『10の秘密』主演・向井理さんインタビュー #2

2020/01/28
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『わたし、定時で帰ります。』の種田役は難しかった

――昨年、主演された舞台『美しく青く』(作・演出 赤堀雅秋)はまさに群像劇でした。海辺の小さな町の自警団の男たちを中心に、なんでもない日常会話の連なりから、震災の傷や、地域の閉塞感、家族の問題がじわじわと浮き彫りにされていく物語。向井さんの、前に出過ぎず引き過ぎず、静かに役として存在されているのが印象深かったです。

向井 去年はたまたま、そういう難しい役が続きましたね。『美しく青く』やドラマ『わたし、定時で帰ります。』の種田のように、セリフが少なく、佇まいだけで見せるのは本当に難しい。『きみが心に棲みついた』のようなエキセントリックな役のほうがずっと楽なんです。

―そうなんですか!

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向井 とくに舞台でセリフがないというのは、とても恐ろしいもの。『美しく青く』は、言葉に頼れないし、表情で表現しようにも、お客さんが自分の顔を見てくれるかわからない。主演であのセリフの少なさは本当に参りました。

 いわゆる「見せ場」のない芝居だったので、お客さんにどんなふうに受け止められたのか、いまだに正解は出ていません。演出の赤堀さんは「正解なんてないから、最後まで悩みながらやるのがいいと思うよ」とおっしゃったので、それを信じてやりました。

 

――観客の反応はチェックするのですか?

向井 舞台のアンケートはすべて目を通します。それによって芝居を変えることはしませんが、自分の意図していないところでミスリードしているのなら直さなきゃいけないので、一応見ておくという感じです。

「最も苦手なことを積み重ねた」舞台で徹底的に叩き込まれたこと

――向井さんは昔のインタビューで、「役者はアーティストではない」「何色にでも染まる、白いキャンパスでいたい」とおっしゃっていました。

向井 だいぶ前ですね(笑)。役者をはじめて2、3年のころじゃないかな。

――いまはどう思われますか? 白くあり続けるのは難しいのではないかと想像しますが。

向井 手垢はつきますよね(笑)。経験を積むうちに、こうすれば伝わるとか、うまく見える技術が身についてしまうと思うので、そういうものをなるべく持たないように意識しています。

 

『美しく青く』では、台詞回しも含めて、自分の得意なことをしようとするとことごとく赤堀さんにダメ出しされました。僕だけでなく、キャストは皆「それは◯◯さんであって、役の人物じゃないから二度とやらないで」と徹底的に言われてきたのですが、そう言われるのが実は一番キツイ。

――追い詰められそうですね。

向井 あの舞台は、最も苦手なことを積み重ねていった感じです。赤堀さんの舞台は好きで、よく観に行っていましたし、赤堀さんご自身はすごく繊細で優しい方ですが、けっこう本気で頭をガツンと殴られたような体験をした仕事でした。

 

 でも、それが今回のドラマにもつながっていると思います。いろんなことをそぎ落として、新鮮な気持ちになれています。全ての仕事はやっぱり初めてやるつもりでやらなければいけないなと思います。

――キャリアを積みながら、「初めてのつもりで」というのは大変そうです。

向井 難しいです。でも、演技って、日常でも皆、しているものなのだと思います。僕だって普段はこんな喋り方じゃないし。