「演技って、ものまねの延長だと思うんです」
――そうなんですか? 普段通りに話していただきたいです(笑)。
向井 誰しもプライベートとオフィシャルの顔は違うじゃないですか。会社にいるときと家族の前では違うだろうし、『10の秘密』ではないけれど、家族のなかだって、気を遣うときもある。そうやって演じながらもなるべく新鮮な気持ちでありたい。そもそも演技って、ものまねの延長だと僕は思っているんです。
――ものまね?
向井 たとえば、全く観たことのないスポーツをやることはできませんよね? 聞いたことのない外国語を話せないのと同じように、殺人犯役だったら、ニュースなどで見た映像をもとに模倣しているのだと思います。それをいかに自然にできるか。その人物についての自分の想像をプラスすることでオリジナリティが生まれる気がします。
――役について想像を膨らませるのは楽しいですか?
向井 『10の秘密』の圭太のような役は苦しいですよ (笑)。子どもが誘拐されると想像するだけでもしんどい。でも役のバックボーンについては毎作品考えます。脚本に描かれていないのであくまで勝手な想像ですけど。
圭太だったら、建築家になる夢を抱いていた男なので、子どものころに連れていってもらった大好きな建物があって、そこに何度も通ったのかなとか考えます。
背中だけで哀愁を漂わせる、昭和の名優たちの演技
――その想像はノートに書くのですか?
向井 いえ、頭で想像するだけです(笑)。そういう作業をすることで、セリフの言い方が少し変わります。セリフの説得力って、その人の経験に裏付けられるものなんじゃないかと思います。『男はつらいよ』の寅さん(渥美清)や御前様(笠智衆)なんて、背中で「おう」と言うだけで、言葉以上のものが伝わってきますよね。
――向井さんは20代のころから、笠智衆さんの魅力について語っておられますが、ずいぶん渋いですね。
向井 単純に羨ましいなと思っているんです。セリフが「おう」しかないのに、一体いくらもらっているんだろうって(笑)。
――費用対効果ですか!?
向井 もちろんそれだけではないです(笑)。小津安二郎監督の『東京物語』のラストシーンは、笠さんの背中を映しています。背中だけで哀愁を漂わせるってすごいこと。どうしたらそんなふうになれるのだろうと不思議でしょうがないんです。顔が見えないからこそ、微笑んでいるのか泣いているのか観客に想像させます。わかりやすい表現が全てではないなと、それを観たときに思いました。
――舞台や映画はよくご覧になるのですか?
向井 はい。芝居は月に1〜2本は観ます。5月に倉持裕さんの舞台に出るので、去年は『鎌塚氏、舞い散る』を観劇しました。面白かったです。
映画は、家で撮りためたものをなるべく1日1本は観るようにしています。邦画は、どうしてもライティングや、ネクタイに仕込んだマイクなど、現場のことが気になってしまうので、洋画のほうが多いですね(笑)。
――どういうタイプのものがお好きなんですか?
向井 出演する側としては、選り好みはしませんが、観客としてはハッピーではないもののほうが好きですね。バッドエンドでもいいくらい。
悪役が捕まって終わり、というより、サイレンのなかを犯人が歩き出しているというような、その後を想像させるもののほうが好き。想像力に勝るものはないと思うので、想像力を刺激させる演技、作品を作れたらと思います。
(#1より続く)
写真=佐藤亘/文藝春秋
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#1 シングルファーザーに挑戦 2児のパパ・向井理が明かした「子どもの反抗期が怖い」
https://bunshun.jp/articles/-/27885