阪神とオリックスの両球団で選手と監督を務めた唯一の人物

 現在、セ・パ交流戦では俗に言う関西ダービーが行われている。オリックスvs阪神(京セラドーム大阪)。ご存知、同じ関西に拠点を置く球団同士の激突である。

 阪神ファンの私にとって、このオリックスとの共通点を考えた場合、ある人物の顔がパッと思い浮かんでくる。 “どんでん”と書いて、いったいどれくらいの人が即座に認識できるだろう。元阪神監督であり、元オリックス監督でもある岡田彰布だ。

阪神とオリックスの両球団で選手と監督を務めた岡田彰布 ©文藝春秋

 阪神とオリックスの両球団で監督を務めた人物といえば、彼の他に故・中村勝広もいるが、選手としても両球団に在籍したとなると、この岡田しかいない(本稿の性質上、敬称を略すことをご容赦ください)。現役時代は阪神の主力打者として1985年の阪神日本一に貢献し、94年にオリックスに移籍すると阪神・淡路大震災が起こった95年にオリックスのリーグ優勝も経験。その年限りで引退して以降も、翌96年からはオリックスの二軍助監督兼打撃コーチとして指導者人生をスタートさせ、その後は阪神二軍コーチ、二軍監督、一軍コーチ、一軍監督を歴任。さらに2010年からはオリックス一軍監督も務めた。

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「岡田vs金本」? 一部で報道された対立構造

 そんな岡田彰布であるが、近年は野球評論家として精力的に活動している。今春には『金本・阪神 猛虎復活の処方箋』(宝島社新書)と題した著書も発売された。

 そんな中、一部週刊誌等がこの著書を取り上げ、「岡田彰布が金本阪神に強烈なダメ出し!」と報じたことがあった。なんでも岡田“元”阪神監督がかつて師弟関係にあった金本“現”阪神監督を批判するのは異常事態であり、これによって阪神伝統の御家騒動(内部抗争)がまたも勃発するのではないか、というわけだ。この「岡田vs金本」の対立構造は、いくつかのネットサイトにも転載されていたので、それなりに話題になった。

 また、同書は発売前の予約時からタイトルが変更されていた。変更前のタイトルは『金本阪神タイガースに未来はない』という、かなり過激で極論じみたものだったため、余計に先述の対立構造が煽られるかたちとなった。2015年オフに金本監督が誕生する前、第二次岡田政権の発足を期待する声も多かっただけに、それが実現しなかったことによる、なんらかの思惑が働いているのかも……そんな邪推を書き立てる記事もあったほどだ。

究極の阪神ファンならではの“好きすぎる”がゆえの異論

 もちろん、私も同書を読んでみた。文字数の関係で詳細は割愛せざるをえないが、確かに同書には現在の金本監督のチーム作りとは異なる岡田理論がいくつか記されていた。代表的な相違点としては「北條史也はセカンド、ショートは鳥谷敬にすべき」「原口文仁は捕手で使うべき」「開幕投手は絶対に藤浪晋太郎」などが挙げられる。

 しかし、正直なところ、これで「岡田vs金本」と報じるには無理があるだろう。全編を読破した印象ではさほど厳しい批判をしているようには受け取れず、いつもの岡田節、すなわち阪神のことが“好きすぎる”がゆえの異論を展開しているだけのように読める。

 これは多くの阪神ファンが認識していることだと思うが、岡田彰布という男はプロ野球人である前に生粋の阪神ファン、しかも極めて血中阪神濃度の高い「虎党の中の虎党」である。大阪・玉造で生まれ育ち、阪神の有力後援者であった父の影響を受けて幼少のころから阪神の選手と親交をもつなど、阪神ファンになるべくしてなった男。選手として阪神を退団した1993年の会見では「たとえ阪神の選手でなくなったとしても、自分は一生、誰よりもタイガースのファンであり続けます」と言って号泣し、監督時代は自軍の試合展開によってベンチで大喜びしたり激怒したり、とにかく見た感じは普通の阪神ファンのオッチャンが特等席で観戦しているような雰囲気を漂わせていた。

 そんな究極の阪神ファンであり、さらに選手としても指導者としても阪神の中核を担ってきた岡田が、現在の金本阪神について言いたいことを書いたら、そりゃあ多少の相違点くらいは溢れ出してくるだろう。阪神ファンのオッチャンとは、そういうものだ。