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バーを巡って気づいたウイスキーの醍醐味
東亜酒造は埼玉県羽生市に蒸溜所を持ち、ウイスキーを生産していたが売れ行きが悪く、社員からも「ちょっと個性が強すぎる」と評価が低かった。しかし肥土は一口飲んで「面白い」と感じた。サントリーで飲んでいたウイスキーとは全く違う味がしたからだ。ただ、広く一般に受ける味かどうかはわからない。このユニークな味を客観的に評価してくれる人がいないだろうかと思案した肥土は、ふと思い立った。
「世界のウイスキーの味に精通したバーテンダーに聞こう!」
肥土は、サンプルをもってウイスキーバーに向かった。そこでバーテンダーと様々な話をし、ある程度打ち解けてから「実は……」と羽生のウイスキーのサンプルを取り出した。バーテンダーは、一口飲むなり「これはおもしろい!」と喜び、ほかのバーも紹介してくれた。
こうしてウイスキーメーカーにとってのフィールドであるバー巡りが始まったのだが、肥土は「買ってください」という売り込みは一切せず、バーテンダーの評価を聞くことに専念した。すると、行く先々で「これ、どこで買えるの?」と聞かれるようになって、後々にまで影響する重要な気づきを得る。
「水割りとしてスイスイ飲めるタイプのウイスキーを求めているお客様にとって、うちのウイスキーは飲みづらいのかもしれないけど、バーのようにお酒の個性を重んじるチャネルでは評価が高かったんです。ウイスキーってたくさんの種類があるけど、その理由は個性があるから。個性の違いを楽しむのがウイスキーの醍醐味で、お店も個性のある味を求めているとわかりました」