今年、日本の小さな蒸溜所が作ったウイスキーが、世界的なウイスキーのコンペティション「ワールド・ウイスキー・アワード(WWA)2017」のシングルカスクシングルモルト部門で最高賞を受賞した。同部門で世界最高の評価を得たウイスキーを生み出したのが、ベンチャーウイスキーの創業者、肥土伊知郎。
海外で「ウイスキー界のロックスター」と評される男は、いかにして頂点を極めたのか。

前代未聞の短期間で「ワールド・ウイスキー・アワード(WWA)」シングルカスクシングルモルト部門の最高賞を受賞した肥土

スウェーデンからの来訪者

 いまから5、6年前のある夏の日。秩父の山間にあるベンチャーウイスキーの蒸溜所に突然、外国人の男が訪ねてきた。スタッフが応対すると、どうしても手に入れたいウイスキーがあって、わざわざスウェーデンから秩父にまでやってきたという。

 男が探していたのは、瓶のラベルにトランプの図柄が描かれた「カードシリーズ54本セット」のうちの2本。ベンチャーウイスキーが2006年から毎年数本ずつ、6000円台から3万円台で世に送り出してきたこのシリーズは国境を越えて人気を博しており、2015年に開催されたオークションでは、コンプリートセットが約5400万円で落札された。

 生産数が少ないベンチャーウイスキーの商品にはコレクターが多く、ときには1本200万円以上で売買されることもあるが、いまならさらに高値が付くかもしれない。

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 ベンチャーウイスキーの限定品「イチローズモルト 秩父ウイスキー祭2017」が今年、世界的なウイスキーのコンペティション「ワールド・ウイスキー・アワード(WWA)2017」のシングルカスクシングルモルト部門で最高賞を獲得したのだ(シングルカスクとは「ひとつの樽から造られたモルトウイスキーを瓶詰めしたもの」を意味する)。

今年受賞した最高賞のウイスキー

 2004年の創業から14年目、2007年に自社の蒸溜所を作ってから10年目での最高賞の受賞は、前代未聞の快挙。ベンチャーウイスキー創業者の肥土伊知郎(あくといちろう)氏はいまや海外メディアに「日本のウイスキー界のロックスター」と称賛されている。

 たった一人で立ち上げたウイスキーメーカーが、なぜ最速で頂点まで駆け上がることができたのか。肥土の歩みを追った。