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新型肺炎を“香港デモ沈静化”に利用? 元自衛隊陸将が読み解く「中国の恐るべきしたたかさ」

防疫だけに目を向けていてはいけない

2020/01/28

 また、文政権の反日政策は、この事態で、「さらに反日に傾く可能性」と「融和に動く可能性」の2つのシナリオがあろう。余談ではあるが、韓国は中国との人的往来が盛んで、新型肺炎の日本への伝播の中継地になりうるが、日韓の政治的な軋轢による「嫌日」の高まりから、韓国人観光客が激減している現状は、我が国の防疫上の観点から見れば好都合であった。

 一方の北朝鮮は、全面的に中国を頼みとしており、中国経済が傾けばその生き残りはより厳しい環境に置かれることになる。最悪の事態では、体制崩壊なども想定され、今後はその動向に格別注視する必要があろう。

共産党一党独裁の“情報統制”が裏目に出た

 また、今次の新型肺炎感染拡大は、米国と中国の覇権争いにも影響を及ぼすだろう。国家資本主義と呼ばれる中国の独裁体制は、覇権争いのうえで民主主義の米国よりも有利だとの見方があった。しかし、共産党一党独裁国家の脆弱性も浮かび上がってきた。武漢協和医院の医師が、感染症阻止のために重要な流行初期に、病院側からかん口令が敷かれていたことを示唆したのだ。

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 市が肺炎の流行を初めて公表したのは昨年12月30日だった。情報統制が裏目に出たわけである。情報統制や人命・人権無視の疫病阻止作戦は、独裁国家ならではの強みであるが、それは反対に弱点でもあることがわかった。

 米中覇権争いの観点から見れば、中国に大きなダメージがあるのは当然であろう。もしも、新型肺炎感染が拡大し続ければ、中国の経済がダメージを受けるだけではなく、習近平政権(共産党政権)に対する人民の怨嗟の声も高まるはずだ。

©iStock.com

中国の疲弊は米国にとってもダメージになる

 一方の米国にとっては、マクロに見れば戦略的に追い風となるのは間違いない。米中経済戦争と選挙の二正面作戦で苦戦していたトランプにとっては、中国経済が低迷し、習近平政権の土台が揺るげば、大統領選挙に注力できる余裕が生まれるのではないか。

 ただ、中国が疲弊すれば、それはブーメラン効果となって米国にもダメージをもたらす。トランプは1月15日、選挙を念頭に貿易交渉を巡る「第1段階の合意」に署名した。合意には中国が対米黒字の縮小に向けて、農産品を含む米国製品の追加購入分として、今後2年で2000億ドル(約21兆6000億円)を上積みすることが盛り込まれた。しかし中国が疲弊すれば、この合意は履行できなくなり、トランプの目論見は潰えることになる。

トランプ大統領 ©JMPA

新型肺炎によって人民解放軍が弱体化する可能性も

 新型肺炎感染の拡大による軍事面へのインパクトについても考えてみたい。スペイン風邪(1918~19年)では、感染者5億人、死者5000万~1億人に上った。当時の世界人口は18~20億人であると推定され、全人類の3割近くが感染したことになる。当時は第一次世界大戦中で、一説によると、スペイン風邪により多くの死者が出、徴兵できる成人男性が減ったため、大戦終結が早まったといわれている。

 もし新型肺炎感染が中国国内で大規模に拡大すれば、中国人民解放軍の兵士が感染し、一時的にせよ戦力が低下する事態となろう。軍は集団生活をしており、人から人への感染が容易い。特に閉鎖された空間内の海軍艦艇(特に潜水艦)においては、感染が加速されやすいのではないだろうか。