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知性は母親から遺伝する

中野 で、脳を切って調べてみると……ちょっとかわいそうなんですけど……。

内田 さっきからかわいそう。

中野 ごめんなさい、ラットさん。脳には海馬と扁桃体―─これが恐怖を感じる場所なんですが──、この2ヶ所がお母さんが舐めることによって変化していたんです。つまり、脳そのものが、接している時間、育ててもらったということによって変わったわけです。別に遺伝だけですべて決まるわけじゃない。一緒に接している存在もとても大事ですよ、ということを示す実験です。

内田 よかった、聞きたい答えが聞けて(笑)。でも、それと同時にちょっとあまのじゃくな言い方をしてしまうと、私はさっきも言ったように父とほとんど一緒の時間を過ごしてないんだけれども、ふと会った瞬間に、怖いぐらい似ている瞬間を感じたんですよね。その部分は遺伝でつながっちゃっているところなんでしょうか。

中野 もちろん、つながっています。お父さんから主に受け継ぐ部分と、お母さんから主に受け継ぐ部分というのは、遺伝的にある程度偏りがあるんですよ。知性はお母さん。

内田 えっ。子どものほうは娘でも息子でも関係なく?

 

中野 そうそう。どうもホルモンの影響で割合的には変わったりするようなんですけど、知性を司る大脳新皮質は主に母側と考えられています。

父親から遺伝するのは内臓、そして情動

内田 知性はお母さん。そして?

中野 内臓などの、他の身体の部分はお父さん。

内田 えっ、そうなの? え~~っ、複雑な気持ち(笑)。

中野 情動の部分もそうかもしれない。

内田 お父さんと?

中野 そうですね、情動脳の部分はオス側の遺伝子が発現しているらしいので。

内田 そうなんですね……。

中野 でも、也哉子さんはそんなお父様のように激しいものをお持ちの人かなと、ちょっと今、疑問には思っているのですが。

内田 実は秘めているんです(笑)。

 

中野 あ~、秘めているんですか。コントロールしているんですね。

お父さんが逮捕されてるのにどうして!?

内田 そうなんです。ほとんど会わないし、嫌だなと思うことのほうが多かった父ですけど、私は小さいとき、ふと「お父さんは何をしているかな」とかって母に聞くんですね。そうすると母が「あんた、やっぱり気になるのね。親子なのね」と言う場面があったんです。母を見ると、父のことをぜんぜん思い出してないなというふうに見える。それは、夫婦は血縁じゃないからだと思っていたんです。

 だから、母とケンカすると、「お母さんは血縁じゃないから、お父さんが逮捕されても何かバカなことをしてもデーンとしていられるけど、私は自分がDNAを受け継いだ父だって思えば思うほど、罪悪感があるんだから」というふうなことを言ったものでした。でも、それって自分の脳でそう言い聞かせちゃっているということもありますよね。

中野 刷り込みはあると思います。自分という存在が生物学的なたとえば遺伝子の所産であるという意識は、先進国の人ならばおそらくほとんどの人が持っていますよね。けれども、いかにも当たり前であるかのようなそういう感覚は、よく考えてみればここ数十年の間に生まれたごく新しいものなんですよね。これを、実は普通じゃないよと思うことも大事なことだと思うんです。別に科学がすべてを支配しているわけではないかもしれないと。科学的に見ればこうだけれども、違う見方もあるよということを、私たちは知っておいたほうがいいんじゃないかと思うんですよね。

内田 なるほど。

text:Atsuko Komine
photographs:Kiichi Matsumoto

【内田也哉子さん、中野信子さんが連載中】

週刊文春WOMAN vol.4: 文春ムック

 

文藝春秋

2019年12月20日 発売

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