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初日に上司が「残業代・有休なし」宣言 都立墨東病院の元薬剤師が明かす“壮絶パワハラ”

労基の指導が入っても「“自己研鑽”しなさい」

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「そこは、妊婦・授乳婦の薬剤治療に携わりたい、質の高い医療を提供できる薬剤師になりたい、患者さんのご家族に寄り添いたいという私の理想とは、全くかけ離れた世界でした」

 昨年9月、東京都立墨東病院で薬剤師として勤めていたAさんが、東京都に対して未払い割増賃金、上司によるパワーハラスメントの慰謝料など計約708万円の支払いを求めて東京地裁に提訴した。冒頭に紹介したのは、11月28日に行われた第1回口頭弁論で原告のAさんが述べた意見陳述の一部だ。

 Aさんが勤めていた東京都立墨東病院は、東京都が運営する病院で、1978年に日本で初めて精神科救急医療事業(ER)を開始。高度救命救急センター・東京都がん診療連携拠点病院・第一種感染症指定医療機関などに指定されており、都内でも高い水準を誇る医療機関だ。現在、世界中で感染が確認されている新型コロナウイルス患者の受け入れ先としても名前が挙がっている。

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東京都が運営している、都立墨東病院 ©時事通信社

入職初日に「新人は、残業代はつけさせられない」

 しかしAさんが働く“薬剤科”は異常な勤務体制にあった。Aさんが説明する。

「墨東病院を含めて都立病院に勤務する薬剤師の仕事は、大きく2つあります。町の薬局と同じように患者さんに薬を準備する“調剤”がメインとなる『中央業務』と、入院されている患者さんに正しい薬の飲み方・使い方を指導する『病棟業務』です。それ以外にも医薬品の在庫管理などの、薬品周りの雑務があります。

 定時は9時から17時45分まででしたが、それぞれ薬剤師たちは異常な量のノルマが課されていて、その時間内では中央業務と病棟業務を終わらせるのが精一杯で、全てのノルマを終わらせることはできない状況でした。私の場合はさらに、東京オリンピックに向けた外国人向けの英語対応マニュアルの作成も任されていました」

 高度な医療を提供する場で、ハードな仕事が多いことは想像に容易い。Aさんも連日、夜の10時頃まで残る日々が続いていたという。しかし、驚くべきことに、その残業代が認められることはなかったのだ。

「薬剤科長に呼び出されて、『新人は、残業代はつけさせられない』と言われました。それと『有給休暇もとらせない』と。その時に、おかしいかもと少し思ったんですが、当時は新人でしたし、ましてや薬剤科長は組織で一番上の人間。怖くて何も言えませんでした。そう言われたのが、入職初日のことでした」

インタビューに応じるAさん ©文藝春秋

 当然だが、法定の労働時間を超えて働く場合は「時間外労働」として割増賃金を払う義務が雇用側に発生する。また、有給休暇の取得についても「使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない」と法律で定められており、労働者の権利であると同時に、雇用側の義務になっている。たとえ1年目の新人であってもその例外ではない。

「実際、有給休暇取得のために申請書を提出したら、薬剤科長から『これは何だ。取る必要ない』と、“二重線”で申請自体が消されたことがありました」

 ベテラン・新人に関係なく、異常なノルマをなんとか終わらせようと残業する薬剤師が多かった状況で、さらにAさんは上司にこんな言葉を投げつけられたという。