「まず朝起きると、手足の震えが止まらないんです」
「2年目になっても、業務量がふえていくだけで状況は何も変わりませんでした。
ある日、いつものように定時内で終わらなかった仕事を残業してこなしていたら、薬剤科長に『なんで時間内に終わらせられないの?』『業務時間をちゃんと与えてるのに終わらないのは、あなたの能力がないからじゃないの?』と高圧的な物言いで、薬剤科の同僚がいる衆人環視のもとで言われました」
連日、終わらない仕事のノルマを抱えながら上司のパワーハラスメントに耐える日々が続き、ついにAさんは体調を崩してしまう。「思い出さないようにしている」というもっとも辛い日々を涙ながらに教えてくれた。
「まず朝起きると、手足の震えが止まらないんです。どんなに止めようと思っても止まらないので、自分で服を着替えることすらできませんでした。なので、母に着替えを手伝ってもらい何とか準備をして、毎日最寄りの駅まで送ってもらっていました。でも駅のホームで1人電車を待っていると、『なんで生きてるんだろう』とふと考え込んでしまって『このまま死んじゃおうかな』なんて思ってしまうんです」
労基の指導が入っても「“自己研鑽”しなさい」
日に日に様子がおかしくなっていくAさん。心配する両親や友人の勧めから、ついに心療科を受診した。治療を続けながら出勤していたある日、さらにAさんの心を折るような出来事が起こってしまう。それは2019年初めの労働基準監督署による調査だ。
「やはり労働時間の管理などで、労働基準監督署から指導が入ったんです。当然、これをきっかけに、労働環境が改善されるんだろうと期待していました。ところが、その後に薬剤科長から言われたのが『終業時刻の17時45分から30分以内に全員タイムカードを切って、その後に自己学習(自己研鑽)をしなさい』と」
この“自己学習”とは何か。つまりは、表面上、全員18時15分に仕事が終わった形で記録し、終わらなかった仕事は“自己研鑽”の時間とし、残業として認めないということ。これでは、指導後に労働環境がさらに悪化していると言えるのではないだろうか。この「自己研鑽」という言葉は、幾度となくAさんに残業を強要する名目ともなった。
「墨東病院は東京都が運営している病院で、私たちは薬剤師であり公務員でもあります。働き方改革を推進している行政機関がこのような労働環境なのにも関わらず、労働基準監督署が入って、指導もされたのに何も改善されない。さすがにおかしい、という思いが強くなりました」