墨東病院の薬剤科で頻発していた“医療ミス”
Aさんは改善されない労働環境がこのまま続くことへの“危機感”を募らせている。なんと、墨東病院では“普通では考えられない医療事故”が複数回発生していたというのだ。
「薬剤師たちはこの労働環境の中で、常に疲弊しています。その中であり得ないミスが起こっていました。
例えば、薬は基本的に処方箋を元に薬剤師が用意します。しかし医師が間違ってオーダーしてしまう危険もあるので、その場合は“疑義照会”と言って、薬剤師がしっかり確認した上で患者さんに薬をお出しする仕組みになっています。
ところが、抗てんかん薬のフェノバールが間違って多量にオーダーされているのに気づかず、そのまま患者さんに投薬されてしまったんです。幸い患者さんには何も異常はありませんでしたが、医療機関の労働環境の悪化は患者さんの命の危険へ直結しているんです」
Aさんは現在、新しい職場で薬剤師として働きはじめている。
「もう私は働いていないので、いまさら墨東病院の労働環境改善が叶っても遅い。だけど、訴えを起こしてから医療関係者の皆さんから相談が来るようになりました。『私もパワハラを受けているのですがどうしたらいいでしょうか』など、誰にも頼れずに悩みを抱えている人が多いことを実感します。
私のように苦しむ被害者を二度と生んでほしくない。働き方改革を推進すべき行政機関として、まずはこの事実を認めてほしいと強く願います」(Aさん)
東京都・墨東病院の回答は……
1月30日、東京地方裁判所にて開かれた第2回口頭弁論にて、東京都はAさんに対する未払い割増賃金、上司によるパワーハラスメントについて全面的に否定した。東京都側が書面で提出した内容を一部抜粋する。
――薬剤科長による「有給休暇もとらせない」との説明について
「『原告が病気や事故等で休むときに、有給休暇がなければ、病気休暇や無給扱いの欠勤になってしまうため、できる限り年休を2年目に繰り越しておけば安心できる』との趣旨の発言は行ったが、原告(Aさん)が主張するような発言は行っていない」
――Aさんが有休申請をした際に、『これは何だ。取る必要ない。』と、“二重線”で申請自体が抹消したことについて
「薬剤科長が『これは何だ。取る必要ない。』と言ったとの点及び年休簿の記載を二重線で消したとの点につき否認する。記載は二重線で消されたのではなく、消しゴム等で消されてあった。もっとも薬剤科長は、当該記載を消していない」
――退職にあたっての年休取得で、管理主任と調剤主任がAさんを地下の当直室に呼び出し、『なんて自分勝手なんだ』と叱責したことについて
「呼び出したのは地下の当直室ではなく、1階の課長代理室。1日当たり休暇取得希望者を記入できる人数に限りがあるので、他職員にも配慮してほしいということ、そのため、1人でたくさん年休を取得すると、自分勝手と思われてしまうよという趣旨の話を丁寧にした」
――「自己研鑽しなさい」と無給残業を強要するなど、一連のパワーハラスメント行為について
「薬剤師は皆プロフェッショナルとしての意識を持っているため、職務終了後でも院内に残って自己研鑽する場合が多い。そのため、仕事と自己研鑽のための勉強との区別をきちんとつけることは、他の職員にも言っていることである」
――労基署からの指導後の薬剤科長による指示について
「職場にて超過勤務ではない自己学習を行う場合は一旦退勤打刻をするよう指示したもの」
また、在職していた東京都立墨東病院に、未払い割増賃金、上司によるパワーハラスメント(「有給休暇を認めない」などの発言)、今後の労働環境の改善について質問したところ、「現在係争中の案件のため、回答を差し控えさせていただきます」との回答があった。
東京都のホームページを見てみると、「TOKYO働き方改革宣言企業」というサイトに行き着く。説明を読むと、「すべての労働者が意欲と能力を十分発揮して生産性の向上を図るとともに、生活と仕事の調和のとれた働き方を実現するためには、長時間労働の削減や年次有給休暇等の取得促進など、これまでの働き方を見直すことが必要です」とある。
トップページには、小池百合子都知事のこんな言葉が添えられている。
「東京都は、働き方改革に取り組む企業を支援します」
この言葉が本当の意味で実現されるために、まず東京都がAさんへ誠実な対応をしてもらうことを願いたい。