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日本にただ一人の“天気痛外来医師”に聞く「どうして雨の日は調子が悪くなるのか?」

低気圧と「内耳」のメカニズム

2017/06/27
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天気痛はどうして起きるのか?

 それにしても、天気痛はどのようなメカニズムで起きるのだろう。天気痛を引き起こしている要因は、気圧、気温、湿度などいくつかがあるが、佐藤医師がもっとも注目しているのは「気圧」である。その変化を敏感に感知するのが内耳。内耳とは、中耳のさらに奥に位置し、三半規管や前庭など体のバランスを保つ器官が集まっている部分である。

「内耳の感度は、人によってかなり違いますが、敏感な人は気圧のちょっとした変化も感じ取ってしまいます。低気圧が近づく2日前になると古傷が痛むという人がいるのはそのためです。これから多くなるゲリラ豪雨のときに生じる細かい気圧の変化も感知してしまう。ゲリラ豪雨のときは気圧が一度グンと下がって、すぐに一気に上がるのですが、それを感じてしまって、具合が悪くなるのです」

 

 内耳が感じ取った気圧低下などの情報は、内耳の前庭神経を通って脳に伝達され、それによって自律神経はストレス反応を引き起こし、交感神経が興奮する。その結果、痛み物質が分泌され、痛み神経を刺激し、痛みを感じるというわけだ。

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腰痛や関節リウマチ、変形性関節症、心臓病や歯周病にまで影響

 天気痛を含め、気象の影響を受けやすい病気にはバリエーションがある。頭痛以外にも、腰痛や関節リウマチ、変形性関節症などの症状も悪化させる。また痛みだけではなく、心臓病や脳卒中、ぜんそく、歯周病、そしてうつ病などの精神疾患に影響を及ぼす。

 漫画家の田中圭一さんが、自身のうつ病体験だけなく、他の人のうつ脱出エピソードを書いた『うつヌケ』がベストセラーになった。そのなかで田中さんは、春先になると決まって治ったはずのうつ症状がぶり返してくるので、おかしいと思って原因を探った結果、気温の変化が原因であることをつきとめたいきさつを書いている。

「ああ、これ私も読みましたよ。確かに、気温差というのはすごく大きなファクターで、うつの人は気温差をすごく訴えます。外国では、1日の気温差や、前日と気温差が10℃違うと、うつが悪化するという研究があります」

©iStock.com

天気と不調のメカニズムがわかれば、体調も回復しやすい

 佐藤医師は、あくまでも推測だがと断りながら、セロトニンが関係しているのではないかという。セロトニンとは、一時期“幸せホルモン”などとメディアに取り上げられた神経伝達物質だ。うつ病の治療薬にもセロトニンの濃度をあげるSSRIがあるぐらい、うつと関係の深い物質だが、気温差によってセロトニンの分泌量が下がるからではないかというのだ。

『うつヌケ』の田中さんは、気温差によってうつ症状が変動するというからくりがわかったことで、「いっきに霧が晴れた」「つきあい方がわかればけっして怖くない」と書いている。

「気温差が体調に影響しているとか、雨が降りそうだと体がおかしくなる、低気圧だと不調になる……。それにはちゃんとしたメカニズムがあるんですよ、と説明することで『気分が晴れた』と、体調が戻った人も多いんです。人間にとって、何が原因かわからないという“霧”が晴れることはとても重要なんです」

佐藤さんの著著『天気痛』(光文社新書)