尖閣諸島は言うまでもなく日本の固有領土です。同時に米中の覇権争いが衝突する最もホットな地点でもあり、近年、その緊張度は格段に増しています。私は二〇〇三年に陸上自衛隊の西部方面総監部幕僚長となり、尖閣上空を周回した経験もありますが、その頃と比較しても状況の激変を痛感せずにはいられません。後に詳しく述べますが、私の考えでは、中国の尖閣に対する“バトル”はもうすでに始まっているのです。
尖閣をはじめとする南西諸島を、日本がいかに守るかを考える上でまず重要なのは、尖閣諸島が日本のみならず、中国、アメリカにとってどのような意味を持っているかを冷静かつ正確に分析することです。
現在、中国の海洋戦略の柱となっているのは、いわゆる「近海防御戦略」です。この戦略の要諦は「接近阻止」、「領域拒否」にあります。
接近阻止とは、九州を起点に、日本の南西諸島、すなわち沖縄、先島諸島、尖閣諸島、台湾、フィリピン、ボルネオ島を結んで「第一列島線」とし、そこから中国内の海域(黄海、東シナ海、南シナ海)への米軍による接近、侵入を阻止する戦略です。つまり最終的には、沖縄をはじめとする日本の米軍基地を排除するのが、中国の基本的な戦略なのです。
次に、「第二列島線」として、伊豆諸島、小笠原諸島、グァム、サイパン、ニューギニア島のラインを設定。この第二列島線と第一列島線の間の「領域」で、米軍の自由な海洋の使用および作戦行動を拒否する。これが「領域拒否」です。
もちろんこれはアメリカの東アジア戦略と正面からぶつかります。そこで二〇一三年、米国防総省が中国の接近阻止・領域拒否戦略に対抗するための戦略として発表したのが、陸・海・空・海兵などの戦力を組み合わせて運用する「エアシーバトル構想」でした。
その基本的なシナリオは、ステルス戦闘機が第二列島線、第一列島線を越えて中国の攻撃目標(艦船、潜水艦等)を捕捉、トマホーク巡航ミサイルによって撃破、というものですが、そこで日本はアジアにおける「キーストーン」(要石)として位置づけられています。
一方、中国からみると、日本が日米安保条約によって米国と同盟関係を堅持する限りは、たとえ中国軍が太平洋に進出できたとしても、常にその脇腹と背中を脅かされ、不安定な状態となります。つまり米中にとって、日本は、日本人が考えている以上に戦略的価値が高いのです。それだけに、日本列島と尖閣、沖縄などの南西諸島は、米中戦略のぶつかる「火薬庫」となりうるわけです。