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尖閣侵攻三つのシナリオ

 では、中国は尖閣で何を仕掛けてくるのか。そして、日本はそれにどう対処したらよいのか。それを探り、検証するためには、私は指揮所演習の手法がきわめて有効だと考えます。

 指揮所演習とは、図上において想定したシナリオに従い、敵と味方の作戦計画に基づき、彼我の部隊などをコマに置き換えて、時間の進行に従い戦闘の様子を再現する、いわゆる有事シミュレーションです。その展開の様子を克明に記録・検証して、作戦計画の有利な点や、問題点、対策などを明らかにするのです。

 ここでは、その考え方、進め方のアウトラインを紹介しましょう。尖閣有事の場合、大きく分けて三つの基本的なシナリオが想定できます。

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 A 大規模軍事侵攻。たとえばフォークランド紛争のように、中国が大々的に軍事力を使用して、尖閣諸島を占領にかかる。烈度が最も高い。

 B 特殊部隊の隠密上陸。潜水艦により尖閣諸島近くまで潜航した後、ボートなどを利用して、隠密のうちに上陸侵攻を行う。上陸に際して戦闘が生起する可能性は低いが、その後の攻防戦において武力行使が予想される。烈度は中位。

 C 漁民、工作員などの上陸。徴用した漁船に漁民あるいは扮装した工作員を乗船させ、上陸。中国国旗の掲揚などを行うことで、中国領有を既成事実化しようとする。武装していないため烈度は低い。

 まず、Aの大規模軍事侵攻は、最も起こりにくいケースです。そもそも中国にとって尖閣諸島そのものを領有するメリットはそれほど大きくありません。たとえば尖閣を領有して軍事的なプラットフォーム(戦略拠点)を築こうにも、沖縄の嘉手納米軍基地が近過ぎる。米軍からのミサイル一撃で、すべて吹き飛んでしまうでしょう。

 また、今、中国軍が尖閣に攻め込んだとしたら、米軍がただちにエアシーバトル構想を発動させることになり、一気に米中戦争へとエスカレートする危険性が高い。現段階では、米中の軍事力には圧倒的な差があります。東シナ海、南シナ海に潜航している米原潜からSLBMを撃ち込まれたら、中国の基地、主要都市はただちに壊滅的な打撃を受けてしまいます。その意味では、現時点で、中国が尖閣の領有を目指して、ただちに大規模な軍事侵攻を行う可能性は低い。

 むしろ中国にとって尖閣が重要なターゲットであるのは、日本、そしてアメリカに政治的な揺さぶりをかける「道具」としての利用価値が高いからだ、というのが私の考えです。そのために、中国は正面きっての軍事侵攻以外のあらゆる手段を使い、それによって、日本よりもアメリカがどう出るか、どのような反応を示すか、ホワイトハウス、ペンタゴンの動きを注視しているのです。あわよくば日本の暴発を引き出し、アメリカが関与しにくい状況を作り出すこと、それによって日米間に不信を増幅させ、同盟に亀裂を生じさせることが、中国の真の狙いなのです。

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