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元自衛隊参謀が警告する尖閣激突シミュレーション

もはやバトルは始まっている。中国の仕掛ける「超限戦」とは?

2014/08/26

海空自衛隊を増強せよ

 有事シミュレーションの初めに示した三つのシナリオのうち、Bの特殊部隊の隠密上陸や、Cの漁民、工作員の上陸なども、こうした「超限戦」のひとつとして考えられます。

 これに対して日本はどう対処するか。まず考えなければならないのは、B、Cともにあくまでも第一段階(事案・事件レベル)であり、これを第二段階(地域紛争レベル)に引き上げる口実を与えないことです。

 たとえば、B、Cどちらの事態でも、まず出動するのは海上保安庁でしょう。現在の法制でも、海上保安庁は外部からの不法侵入、不法占拠に対して排除できます。そこで、工作員の抵抗に対して、海上保安官が刺されるか、銃で撃たれるなどして負傷したが、その際、向こうにも負傷者が出て、「先に日本が撃った」などと主張し、水掛け論となったとき、どう対応するか。

 そうしたディテイルを具体的にひとつひとつ検討していくのが指揮所演習なのです。実際に魚釣島や久場島、大正島などの模型を使い、人間の駒を置いて、検討する。向こうが足で蹴ってきたらどうするか、短剣や、モリ、槍などで抵抗した場合はどうするか、ピストルを向けてきたら、あるいは催涙ガスを投げてきたら、などとあらゆるバリエーションを想定します。

 次に、不幸にして、事態が第二段階にまで進んでしまったらどうするか。最近のケースでは、ベトナムの領海に、中国が掘削船と千隻にも及ぶ大船団で押し寄せ、放水してベトナム側を蹴散らし、船に体当たりして沈没させたりしましたが、こうした場合でも、まだ海上自衛隊は出動してはなりません。仕掛けてきた中国に「先に日本が軍隊を出動させたから」と事態をエスカレートさせる口実を与えることになるからです。

 冷静で適切な対応を取るためには、事前に入念で網羅的な作戦計画が必要となります。そこで、私がこれからの日本に本当に必要だと考えるのは、より広範な官庁や各種機関による有事シミュレーションであり、危機対処計画の作成です。

 もっと言えば首相を最高統裁者として、オール・ジャパン――防衛省、外務省、国交省、海上保安庁、警察庁、公安調査庁、財務省、経産省、メディア、サイバー関連企業、心理学者など産官学あげてあらゆる部門から協力者を募る――で共同研究を進めなくては、到底、「超限戦」の中国に対峙することはできない、と考えるからです。

 そこで何を論じるべきか。これはあらゆる組織に言えることだと思いますが、まず最も重要なのは、すべての参加者が目的・目標を共有することです。我々の言葉では「任務分析」といいますが、国防の場合、日本の目的・目標は何か、何を守るのか、何のために戦うのか、を徹底的に論議するのです。その上で、いかに国民の出血を最小限にとどめるか、国土、経済をどの程度保全できるか、などを考えていく。

 次に、敵情および味方の状況です。これも軍事のみならず経済、外交、指導部個々の現状、地形気象まで情報を集め、敵の可能行動、相手がやってくるだろうことを精査する。これを味方、国内および同盟国、周辺国についても行うのです。

 それを踏まえて、今度は予想できる敵の行動、それに対応する味方の行動を、すべて時系列に落とし込んでみるのです。これを「工程表」というのですが、何月何日に選挙がある、何月何日には首都で大きなイベントがある……といったことを細大漏らさず書き込んでいくのです。そして、彼我の弱点を洗い出す。この時期、この場所が最も手薄になる、したがって危険度が高い、と考えていくのです。

 こうした分析をあらゆる官庁、組織で行うことで、思いがけないことがいろいろと分かってくる。どこが致命的な欠陥なのか、最も備えの足りない部分は何か、それぞれ他の部署に求めるものも明確化されます。

 自衛隊に関して、私の考えを述べるならば、まず急務なのは、いま自衛隊で取られている二段階国土防衛戦略――まず敵の侵略を海、空で食い止め、第二段階では沿岸、内陸部での国土内作戦を行う――を改め、「水際以遠の国防戦略」すなわち海上(およびその上空)に戦闘努力を集中する戦略への転換を図ることでしょう。当然のことながら、国内戦となれば国民の多くが戦闘に巻き込まれ、莫大な生命財産が犠牲となります。私は、それは今日の日本では容認されないし、また、すべきではないと考えます。

 それは必然的に海・空自衛隊の大幅増強を意味します。平成二十五年度の防衛予算では、約一四万人と最大の人員を抱える陸自が三六・二%、海自が二三・九%、空自が二一・九%(それぞれ四万人強)となっていますが、陸自を大幅リストラし、海・空に振り分ける抜本的な改革が必要でしょう(治安出動、災害派遣には、一定の訓練を受けた予備隊力を養成する)。私自身陸自出身でもありますが、国の未来を考える上では避けて通れない改革だと考えます。さらに付け加えるならば、現行の規定では、有事に任命される「在沖縄統合任務部隊指揮官」とそのスタッフを常任とし、作戦計画を策定して、陸海空からなる統合機動部隊を編成、日頃から防衛訓練を行うのが望ましいでしょう。

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