築地から晴海通りを進んで行くと、勝どき、オリンピック村ができる晴海、豊洲市場がある豊洲、さらにその先に、東雲、有明、辰巳、新木場と続く。

 昭和の終わり頃、豊洲界隈を散策すると、造船所の跡地や更地になった草の生えた区画が遠くまで広がっていた。Ry Cooderの曲がよく似合うような風景だった。

 豊洲、辰巳、東雲あたりは近年、東京で特に近未来化した湾岸エリアだ。平成に入った頃から開発が進み、ゆりかもめが豊洲まで延伸し、タワーマンションが林立した。かつての昭和の頃の面影は皆無である。 

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変貌する豊洲駅界隈

「豊洲から歩いて10分、ポツンと一軒そばがあります」

 豊洲駅近くにはかつて「とんぼ」という立ち食いそば屋があった。夜、酒が飲める旨い店だった。しかし、2012年に閉店。このエリアには個人経営の立ち食いそば屋はもうないのだろうと、足が遠ざかっていた。

 ところが、豊洲に勤める立ち飲みの友人アラキから次のような情報が入ってきた。

「豊洲から歩いて10分位の所に、創業23年のポツンと一軒の立ち食いそば屋があって旨いです。酒も呑めます」

 久々の朗報である。そこで早速、訪ねてみることにした。

 数年ぶりの豊洲だ。駅はマスクを付けたオフィスワーカーでごった返していた。東京メトロ豊洲駅6a出口の階段を上がると、晴海通り沿いに出る。とにかく豊洲の変貌ぶりに驚く。広い空にタワーマンション、ショッピングモールが続く。東雲の方向に歩いて行くと、また辰巳のタワーマンションが遠くに見えてくる。

東雲橋あたりから辰巳方面をみる。空が版画家藤牧義夫の作品のようだ
東雲橋から東雲水門をみる
東雲の巨大なショッピングモールとタワーマンション街
そんな豊洲から歩いて10分ちょっと。小さな路地を曲がってすぐに「てっちゃん」はポツンとあった

 東雲水門を右手にみながら東雲橋を渡り東雲の地番に入ってしばらく行くと、ひっそりとした路地がありそれを右折するとすぐにポツンと一軒そば屋が現れた。「てっちゃん」である。居酒屋「菊水」の並びである。確かに豊洲駅から歩いて10分以上はかかっている。