スパイと出会うきっかけになる場所
さらに遡ると、05年にも、東芝子会社の元社員が、社内で扱う軍事転用が可能な半導体関連の情報をロシア側に渡し、見返りに現金を受け取っていたことが発覚。背任容疑で元社員が逮捕されている。
「素性を隠し、イタリア人のコンサルタントを装って、同社社員に近づいていったといいます。こうしたスパイと出会うきっかけになる場所が、展示会やシンポジウム、そしてパーティーなど。2人も、千葉県・幕張で行われたテクノロジー関係の展示会で出会ったといわれています」(同前)
そして、この元社員の情報漏洩に関わったスパイもまた、通商代表部に所属していたという。
「通商代表部とは、貿易関連や経済関係の業務を担うロシア大使館の組織の一つ。スパイ行為をする者は、こうした公の組織の中に紛れ込んだり、外交官という身分を使って入国し、活動しています。記憶に新しいところでは、2015年、ロシアがニューヨークで経済情報のスパイ活動を行った事件が発覚した際、関わっていた人物は、ロシア系銀行マン、ロシア国連代表部職員、そしてロシア通商代表部の職員として米国内で活動していました」(同前)
彼らはいずれも、ロシア対外情報局の工作員だといい、2人は米国内で追訴されたものの、1名は、外交特権を使いロシアに帰国してしまった。
「私が見た中で、日本で最も多くのロシアスパイが跋扈していたのは、08年前後のことです」
そう回想するのは、別の公安関係者だ。
6年後に控えたロシアのソチ五輪に向けて、多くのロシアスパイが日本で工作活動にあたっていたというのだ。
スパイが紛れ込むセミナーに、久間章生・元防衛大臣も参加
東京の下町・江東区。決して交通の便がいいとはいえないこの場所にある「ホテルイースト21東京」に、ロシアと日本の関係者200名以上が集まったのは、08年2月14日のことだ。
「ソチ市の人工島造成プロジェクトを推進するため、『露日経済協議会』(当時・アスラン・アタビエフ理事長)なる団体が主体となった投資セミナーが開催されました」(同前)
日本からは、国会議員らで組織された「ソチ冬季オリンピック協力委員会」の会長で久間章生・元防衛大臣が参加していた。
「日本側は、建設や機械、商社などの経営者をはじめ、多くの経済人が参加。中には、ブローカーや、怪しい投資家などもいました。いっぽうロシアからは、政府系の経済団体の関係者や、企業関係者などを装ったスパイ活動を行うような人物も紛れ込んでいた。彼らは、セミナーを通じて、政治家をはじめ、日本の投資家たちとのパイプを作っていたと見ています」(同前)