2002年3月7日に17歳の少女・広田清美さん(仮名)への監禁・傷害容疑で逮捕された男女は、3日後の3月10日になっても黙秘を貫いているとのことで、名前すら明らかになっていなかった。

 私は夕刻になって、後に松永太(逮捕時40)と緒方純子(逮捕時40)だと判明する男女が部屋を借りていた、福岡県北九州市小倉北区片野の『片野マンション(仮名)』の1階にあるスナックを再訪した。

 昨夜、同店のマスターから、まだ出勤していないママが、男女のいた30×号室の真下に住んでいること、さらに彼女が数年前にノコギリでなにかを切るような異音を耳にしており、夏場には3階以上で異臭が漂っていたとの話を聞いていた。そこでママに会おうと出勤を待ったものの、彼女が到着する少し前にやって来た客の始めたカラオケが続いていたため、日を改めることにしたのである。

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※写真はイメージです ©iStock.com

夜中は人の声は丸聞こえ

 ビールを飲みながら待っていると、やがて50年配のママが店に現れた。昨日とは違い、カラオケの邪魔もない。いつ他の客が来るかわからないため、さっそく話を聞かせてもらうことにした。

 最初に尋ねたのは、男女と清美さんがいた部屋の間取りについてだ。

「あそこは6畳が2部屋と、あと10畳のキッチンがあるリビングやね。それに風呂とトイレが別々についとるんよ」

「上の部屋の物音というのはよく聞こえるんですか?」

「夜中は水の音とか人の声は丸聞こえなんよ。でも、私は夜は店に出とるから、家におらんかったんやけどね」

肉が腐ったような臭いが2、3年続いた

 私が前夜、マスターからノコギリらしき音のことや異臭事件について聞いたことを伝えると、ママは当時の記憶が蘇ったのか、顔をしかめた。

「もう、ほんと臭かったんよ……。でね、たしか5、6年前やったんやけど、深夜に1週間くらい、ギーコ、ギーコっち感じでノコギリみたいなのを挽く音が響きよったんよね。それで、なんの音かねえっち言いよったら、しばらくしてから、3階から上の階で肉が腐ったような臭いがするようになったの。もう、鼻が曲がるような臭い。その臭いが2、3年くらい続いたかねえ。とくに夏場になるとひどくなったんよね」

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「2、3年?」

 思わず驚きの声を上げた。

「それで誰も問題にしなかったんですか?」

「いや、同じ階の××さんが警察に言ったんよ。でも警察はとりあってくれんかったみたいやね」

「警察に届けたんですか? だってその頃って少女はもう男女と一緒にいたわけでしょ。もしもそのときに警察が踏み込んでいたら、監禁がそこまで長期化しなかったかもしれないのに……」

「そうなんよねえ。けど、まわりはみんな知らんかったけねえ。あの子は本物のおばさんと暮らしとるっち思いよったもん。今考えるとかわいそうよね」

 この片野マンションの30×号室は、清美さんの伯母である橋田由美さん(仮名)の名前で借りられていた。松永と緒方の逮捕によって明らかになったことだが、橋田さんの名義だけを借り、そこで緒方が清美さんの“おばさん”として振る舞い、松永らと一緒に住んでいたのである。

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