天才的なバカ本との評判も高い『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』。著者の神田桂一さんと菊池良さんのお二人は、文体模写をどのように切り開いたのでしょうか。インタビューの後編です。
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――苦労したところを教えて下さい。
菊池 全部です(笑)。特に近代作家が横文字を使う時に、今とぜんぜん違う書き方をするので悩みました。カフェをカフェエエと書いたり。そういうのは小説の中に出てくるからいいんですけど、出てきていないものをどう書くかが難しいんです。
神田 真似をするだけでは成り立たなくて、何度も読み返して自分の中に染み込ませてから書き出さないとオリジナルな文章にはならないんですよね。
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宮沢賢治
Kenji Miyazawa
童話作家 日本 1896~1933
カップ焼きそばの星
カップ焼きそばは、実においしい食べものです。
顔は四角く、なかには乾燥した麺に、かやくと、ソースの袋が入っています。誰からも気にいられて、戸棚へ大事にしまわれています。人間はカップ焼きそばの顔さえ見ると、早く食べさせろ、食べさせろと、いうのでした。
しかし、カップ焼きそばはさらにおいしくなろうと、台所の戸棚から飛び出ました。シンクまでやってくると、蛇口の水にむかって云いました。
「お水さん、お水さん。沸騰させて、お湯にさせてください。」
「おや、お前はカップ焼きそばだな。ようし、まかせておけ。」
水は火にかけられて、お湯になりました。お湯はカップ焼きそばのなかに、はいりました。カップ焼きそばは大声をあげて泣き出しました。
(ああ、つらい、つらい。お湯はこんなにも熱いんだなあ。でも、五分間はこうしていなきゃいけない。)
カップ焼きそばは熱湯にたえて、ヨロヨロになってしまいました。
(これで僕は美味しくなれたんだろうなあ。熱さをがまんして、食べられる。たいへんな話だなあ。)
カップ焼きそばは頭をかたむけると、コポコポと湯を捨てました。ソースをからだにつけると、いきおいよく踊って麺とまぜました。
「人間さん、人間さん、僕を食べてください。」
カップ焼きそばがそう云うと、人間は箸でつかみ、食べはじめました。いつまでもいつまでも食べつづけました。
今でもまだ食べられています。
(『もし文豪たちが カップ焼きそばの作り方を書いたら』より)
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