佐々木健一という異色のドキュメンタリストをご存じだろうか?

 実在の国語辞書編纂者の秘話に迫った『ケンボー先生と山田先生~辞書に人生を捧げた二人の男~』で、放送文化基金賞優秀賞やATP賞最優秀賞を受賞したのを皮切りに、哲学バラエティ『哲子の部屋』でもATP賞優秀賞を受賞。日本人医師・満屋裕明を取り上げた『Dr.MITSUYA 世界初のエイズ治療薬を発見した男』では、アメリカ国際フィルム・ビデオ祭2016ドキュメンタリー部門シルバースクリーン賞、さらに『ブレイブ 勇敢なる者』シリーズを立ち上げ、気象学者・藤田哲也を取り上げた第1弾『Mr.トルネード~気象学で世界を救った男~』で科学ジャーナリスト賞、無罪判決14件という驚異的実績の弁護士・今村核の足跡を追った第2弾『えん罪弁護士』ではギャラクシー賞選奨やATP賞奨励賞と、創る作品でことごとく何らかの賞を受賞している。

『ケンボー先生と山田先生~辞書に人生を捧げた二人の男~』 独特のセットでの演出も話題になった ©NHK

 取り上げるテーマも「言葉」「哲学」「医学」「気象学」「司法」と多様。その作風も演劇的な演出やアニメ、CGを使うなどユニークだ。何より特徴的なのは、いずれの番組も見終わると、取り上げている人物を、そのすさまじい経歴以上に人間的に好きになってしまうことだ。

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 こうしたドキュメンタリー番組を作り続ける佐々木健一とは一体、何者なのか?

忘れられない北海道ローカルバラエティ『モザイクな夜』

―― 自在なテーマに取り組むドキュメンタリストである佐々木さんの「テレビの履歴書」をお伺いしていきたいと思うのですが、そもそもテレビの世界に入られたきっかけは何だったんですか? 

佐々木 (照れながら)まず、「ドキュメンタリスト」なんて言われると「誰のこと?」って思っちゃうんですけど……。僕は幼い頃テレビっ子で、バラエティ番組が大好きだったんです。『オレたちひょうきん族』とか、『とんねるずのみなさんのおかげです』とかすごく好きでしたし、『元気が出るテレビ』もメチャメチャ好きでした。生まれが北海道なので『どさんこワイド』もよく見てましたね。あと、メジャーになる前の大泉洋さんも出ていた『モザイクな夜』っていうローカル深夜番組。オープニングからモザイク映像が流れるという意味不明な番組だったんですけど(笑)、よく見てました。当時、超売れっ子の鈴木保奈美さんをゲストに呼んで5日間ぶち抜きのトークを流した時もあったり、今考えてもなかなか変わった番組で忘れられないです。

佐々木健一さん 1977年生まれ ©山元茂樹/文藝春秋

―― 札幌から東京に出てこられたのは大学からですか?

佐々木 はい。大学は早稲田だったんですけど、『ゆきゆきて、神軍』の監督・原一男さんの授業に勝手に潜り込んだりして、なんとなく「ドキュメンタリー映画を作りたいな」と思うようになったんです。で、大学時代にハンセン病の元患者の方たちのドキュメンタリー自主映画を作って、ちょうどその頃にNHKエデュケーショナルという会社が制作した『最後の晩餐・ニューヨークをゆく 僕たちが挑むレオナルドの謎』という番組をたまたま見たのがきっかけで、今の会社に入社しました。

―― 「NHKエデュケーショナル」は、どういう会社なんですか?

佐々木 NHKから制作を委託されている関連会社の一つです。主にドラマや特集番組を作っているのが「NHKエンタープライズ」。報道系は「NHKグローバルメディアサービス」。「NHKエデュケーショナル」は教育番組を主に作っています。僕はよくNHKの局員と間違われるんですけど、そうではないんですよ。

著書も多い ©山元茂樹/文藝春秋

『きょうの料理』『すくすく子育て』……“根無し草”の20代

―― 会社に入られて、どんな番組を担当されたんですか?

佐々木 最初は『きょうの料理』です。実は、NHKってAD制度がないんですよ。いきなりディレクターになるんです。だから、4月に入社して6月くらいにはディレクターデビューしてます。でも料理に興味ないし、「ドキュメンタリーが作りたかったのに……」と不貞腐れてたからだと思うんですが、たった3ヶ月で異動させられたんです。最短記録だと思います(笑)。それで、子どももいないのに『すくすく子育て』に配属されて、その後は健康番組や科学番組など、20代の頃は“根無し草”のように異動の連続でしたね。

―― 自分の中で手応えを最初に感じたのは、どの番組ですか?

佐々木 『すくすく子育て』ですね。この番組って、実は何でもありなんです。基本はスタジオ番組なんですけど、全部スタジオで展開することもできますし、ロケをしてVTRを作ることもできる。30分間オールVTRのドキュメンタリーを『すくすく』で制作したこともあります。すごく演出に幅がある、自由なスタイルの番組でした。