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SARS発生時、カナダでは大きな反中感情が

 しかし、今回の新型肺炎で、最も差別を恐れているのはカナダにいるアジア系の人々かもしれない。トロントでは、2003年にSARSが発生した時、大きな反中感情が起きたからだ。チャイナ・タウンからは客足が遠のき、店の売上げは激減、中国系の人々は学校や職場で肩身の狭い思いをし、職を失った者も現れた。

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 今回も、トロントの北にある、アジア系の人々が多数居住するヨーク市で反中の動きが起きた。地元の親たちが、中国から最近戻った子供たちの通学禁止を求めるべく嘆願書を作り、1万を超える署名を集めたのだ。嘆願書には「野生動物を食べて、周囲の人々に感染させるのはやめさせなければならない」、「ウイルスの拡散をやめろ、隔離施設に行くか国に戻れ」などの嘆願が書かれていたという。

 これに対し、ヨーク市教育委員会は「中国系の家族の間で、懸念や不安が高まっている。安全確保や他の人々へのリスクを考慮して隔離を求めているとしても、それは偏見や人種差別だと見られかねない」として嘆願を受け入れなかった。

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 この出来事について、「社会正義のための中国系カナダ人国民協議会」の暫定会長のエイミー・ゴー氏は「2003年の時のようにならなければいいと思っていたけれど、今、また同じことが起きている。ソーシャル・メディアによって増幅している」と差別の高まりを嘆いている。

米紙が報じた「#中国人は日本に来るな」

 人種差別が起きているのは欧米だけではない。日本でも「#中国人は日本に来るな(#ChineseDon'tComeToJapan)」というツイッターのハッシュタグがトレンド入りし、中国人差別が起きていることを、米紙ニューヨーク・タイムズが報じた。

 実際、このハッシュタグのツイートを見ると、「中国国家ぐるみの細菌テロ」とか「日本に毒をまきにきているのか」、「マスクを買い占めるのをやめろ」など、感染が拡大しているにもかかわらず、日本に入国して来る中国の人々を図々しいと感じているような暴言が目につく。

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 また、「中国は出国禁止にすべきだ」「なぜ、日本は入国禁止にしないのか」といった政府の対応を批判している声もある。

 つまり、このハッシュタグの背景には、ウイルス感染に対する恐怖があり、感染拡大が続いているにもかかわらず、他国のように入国禁止の措置に出ない日本政府の対策が後手後手である現状がある。

 WHO(世界保健機関)の緊急事態宣言を受け、アメリカやアジア太平洋地域の国の多くが中国から到着した訪問者の入国禁止という措置に出たが、日本政府は入国禁止の対象を湖北省に滞在歴のある外国人に限定した措置に留めている。

 しかし今では、湖北省以外の地域でも感染者数が急増している。他国のような厳格な対策を講じないことにフラストレーションを感じている日本の人々は多いと思う。筆者も、この点では、日本政府はもっと厳格な措置をとるべきだと考えている。