中国・武漢で発生したコロナウイルス禍はまだ拡大の一途をたどっています。医療関係者では「軽症者も増えてきて、重症になるリスクも限定的であることが分かった」という楽観論もあれば、「中国以外の国にもパンデミックは広がり、感染拡大はここからが本番」と警戒論を強める有識者もいます。

感染拡大に国内でも警戒が強まるが…… ©︎AFLO

裏目に出た香港政府の「マスク禁止」「出入国管理強化」

 ぶっちゃけ、よく分からないんですよね。

 仕方がないので、みなが言う通り手をよく洗ってうがいをしてマスクをする、ってことで、気が付いてみたら本来この季節に蔓延するインフルエンザがさして流行せずに収まっている。怪我の功名というか塞翁が馬というか、これはこれで衛生観念が行き届いてよかったと思うわけです。

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 一方で、アメリカではインフルエンザが大流行して1000人単位で亡くなっていたり、コロナウイルスの影響でヨーロッパではアジア人全体に対する偏見や差別が目に見える形で行われていたりと、コロナウイルスの事件を通じていろんなものが見えてくるなあと。

 なにぶん伝染病なので、発生地域の武漢も含めて患者多発地域からの人の流入を制限したいという気持ちは理解できます。おまけに、症状がなくてもウイルスを運ぶ危険性があると指摘されたり、国内で副次感染した患者が出たりしたら、正直誰が危なくてどう制限すれば安全なのか分からなくなってしまいます。その結果、中国人は入国お断りという話が出回り、香港では例の逃亡犯条例で市民による大規模デモが乱発した対策として香港政府が打ち出した「マスク禁止」や「出入国管理強化」といったネタと被って全部裏目に出るという素敵な事例までありました。

福島風評被害を思い出す

 何より可哀想なのは武漢や黄岡、温州などコロナウイルス感染者が多く出たとされる20以上の都市が文字通り封鎖されてしまい、旧正月のお祝い時期を直撃したばかりでなく、地域の産業もほぼすべてがストップ。中国を中心とした世界的なサプライチェーンが事実上麻痺してしまうような問題を起こしました。お陰で、中国人旅行者でごった返していた日本の観光地も突然ガラガラになりました。

 また、地域によっては立ち入る人たちすべてを顔認証して武漢から来た人かどうか判定するという話が出回り、さらには新型肺炎の感染者を当局に通報すれば報奨金を出すなんて話が報じられ、もはや専制国家の独裁的な権限による超絶監視社会の壮大な社会実験みたいになってしまっています。封鎖された都市住民は退屈なだけでなく、とんでもないモルモットにされているようで、民主国である日本から見るとどうにも気の毒で同情するほかありません。私なら、我慢できません。

 もっとも、我が国でも、福島第一原発事故に絡んで福島県民や福島県産の物品がいまとなっては根拠の乏しい風評被害で差別された事件も記憶に新しいところではあります。そりゃ事故は悲惨だったけど、被災した福島の人が避難先で「放射能はくるな」的な扱いをされた話など聞くと胸が痛みます。

 現在進行形のコロナウイルスが中国を縛り付けるかのような状況になって、これはどう後始末するんだろうかと心配になります。一度貼られた汚名を返上するのにも相当な時間がかかるところではありますし、悩ましいよなあと思う次第で。