元日に新国立競技場最初の天皇杯王者に輝き、2月8日には富士ゼロックススーパーカップに勝利。2020年の日本サッカーは、ヴィッセル神戸のタイトル獲得とともに始まった。
ルーカス・ポドルスキ(元ドイツ代表)、アンドレス・イニエスタ(元スペイン代表)、ダビド・ビジャ(元スペイン代表)ら、派手なスター選手が目立つチーム。しかし、彼らと日本人選手たちの融合に苦労する中で、チーム内の状況を一変させたのが2019年8月、元日本代表・酒井高徳の加入だった。
まだ欧州でキャリアを重ねることが可能なタイミングでのJリーグ復帰。酒井はなぜ日本に帰ってきたのか、また、酒井の目に日本サッカーはどのように映っているのか。日本代表も海外も経験した男の“本音”に迫った。(3回中1回目)
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昨年夏、酒井高徳の日本帰国はドイツ国内でもちょっとした驚きをもって捉えられた。まだ当時所属していたハンブルガーSV(HSV)との契約を1年残していたし、新シーズンに向けて監督が代わったとはいえ、クラブが売りに出したり不要とする選手ではなかったからだ。28歳、まだまだ欧州で通用する。完全に余力を持ってヴィッセル神戸に加入した酒井は、難なくチームにフィットしただけでなくチームの状態を改善させているように見えた。
一体どのような事情で帰国し、今何を考えてプレーしているのか。ドイツに暮らしシュツットガルト、ハンブルクで取材を重ねてきた筆者には、聞きたいことがたくさんあった。
酒井が語った「帰国の理由」
――昨年夏、まだまだ欧州でプレー可能な状況で、帰国の決断をされました。その理由を教えてください。
「僕は海外に“チャレンジ”しにいったんです。日本代表でもそうですけど“チャレンジし続ける”、“何かにむかっていく”ということ自体が原動力でした。18/19シーズンに、HSVで1部昇格を目指してやってダメで、次のシーズンももちろんHSVでやるつもりだったけど、ご存知の通りやっぱりちょっと自分でも想像してなかった出来事があって、モチベーションがなくなってしまって。なので、それまでに自分が思っていたようなチャレンジと、同レベルのチャレンジができる次のステージを欧州で探してたんです。
実は、ヴィッセルからは早くから話はもらっていました。ただ、その時にはもう本当に単刀直入に『海外に残るつもりです。でも、HSVで起きた出来事によって日本も選択肢に入るかもしれないからコンタクトはとっておきたいです』と答えました。ただ、待たせてばかりというわけにもいかないので、期限を決めて、それまでに自分の中で海外で良い話がなかったら、日本に戻って神戸のヴィジョンに力を使いたい、と伝えました」
――それは欧州の夏の移籍期限前後の話ですよね?
「Jリーグの登録期限が9月半ばだったので、10日まで待ってくれとヴィッセルに言いました。でも、そこまで決断を引っ張るからには、自分も2つの気持ちはちゃんと持っていたんですよ。海外でクラブを探したい気持ちと、日本に決まった時の気持ちの2つを。海外のクラブからのオファーもありました。でも、僕の場合はまだ1年契約が残っていたので移籍金が発生する。となると、手を出せるチームがあまりなかったんです。もっとレベルを下げて探すという選択肢もあったかもしれないけれど、もう海外にそこまで固執はしてなかったんですね。12年にシュツットガルトに移籍した当初に海外に求めていた刺激や、何か結果を残したいという思いがもうなかった。結局、約束の時間がきたので、日本で絶対やってやるって心を決めて返事をしました」