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 後日、私は再鑑定書を県警へ提出した。夫は逮捕され、有罪になって裁判も終わった。語らぬ死体が語ってくれたのである。

 頭蓋底の所見は、死体が腐敗しても白骨化しても、また焼死体でも頭蓋底は頭蓋骨の中で保護されているので、その所見を見ることができる。死因を考察する上で頭蓋底の所見は、極めて重要なので観察を怠ってはならない。

窒息死や急病死などに出現する溢血点の大きさの違いから判ること

 溢血点は赤く小さい点で、窒息死や急病死などに出現する特徴的な所見とされている。眼瞼結膜に好発するので、眼瞼をひっくり返すと見ることができる。

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 溢血点は小さいが、それでも大小の差がある。大きい粟粒大、小さい蚤刺大などと表現されるが、法医学の教科書には溢血点の有無を言うだけで、その大きさについての解説はない。

 私は昭和の時代、30年間東京都の監察医をやっていた。その間2万体の検死を通し、溢血点について私なりの知見を得たので、実例を挙げて述べることにする。

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居間で亡くなっていた認知症を患っていた父親

 帰宅した息子が居間で倒れている父親を発見した。近くの医師に診てもらったが、すでに亡くなられていたので、「これは警察に届けなければなりませんね」と言われてしまった。認知症であったが、最近は医者にかかっていなかった。立会官は「事件性はなく、病死のようである」と、捜査状況を説明してくれた。

 しかし、検死すると顔はうっ血し、眼瞼結膜に粟粒大の溢血点が5、6個出現している。病的発作の溢血点は蚤刺大と小さいのが一般的である。しかし本件は、顔がうっ血し溢血点は大きい。病死とは思えないので、解剖することにした。息子を始め家族は解剖を強く反対した。「何で亡くなられたのか、診断がつかないので死亡診断書の発行ができない」と説明したが、息子は「病名はなんでも良いから解剖しないでほしい。かわいそうだ」の一点張りであった。「お気持ちは分かりますが、病死ではないようにも思えるので」と言うと、息子は驚いて「血圧も高いし、頭もボケていたから病気だ」と強く解剖に反対した。