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将棋界賞金ランキング、駒からマイクへ持ち替える女流棋士、先輩記者からの大目玉

将棋界賞金ランキング、駒からマイクへ持ち替える女流棋士、先輩記者からの大目玉

棋士と棋界の1週間 #7

2020/02/12
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2月9日、日曜日。

 NHK杯は▲野月浩貴八段-△深浦康市九段戦。準々決勝の第1局、深浦九段は2週連続の登場となった。棋譜はこちら(https://www.nhk.or.jp/goshogi/shogi/score.html?d=20200209)。

 序盤の▲3八金が相掛かりマスター野月八段の趣向で、深浦九段も解説の木村王位もびっくり。ペースを握ってそのまま押し切るかと思われたが、深浦九段も徳俵に足が掛かってからが強い強い。

 詳しくは3月半ばに発売されるNHKテキスト「将棋講座」4月号の観戦記をご覧ください(https://www.nhk-book.co.jp/list/textcategory-09191.html)。

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NHK杯でベスト8に進出した深浦康市九段。次は木村一基王位ー行方尚史九段の勝者と対局する ©文藝春秋

 本局の観戦記は小田尚英さん。小田さんは読売新聞社で、平成の30年にわたって竜王戦を担当されていた名物記者である。「物」の1字は余計かな。

 終了後に深浦さんと野月さん、解説の木村さんと観戦記の小田さん、おまけに私の5人で近くの店に入った。棋士のみなさんは小田さんに会うのが久しぶりだったようで、せっかくだから軽く行きましょうということになったのだ。

「記者という言葉を軽々しく使うんじゃない」

 そういえば10年くらい前に竜王戦七番勝負の現場、夜の控室で小田さんに大目玉を食らったことがあった。私がまだ将棋連盟のネット中継記者で、リーダーとして牽引する立場にいたときのこと。たしか「中継記者とか言っているが、記者という言葉を軽々しく使うんじゃない」という主旨のお叱りだったように記憶している。

 小田さんは筋の通らないことを言うような人ではないし、きっと将棋界の人が「棋士」という言葉を大事にするように、「記者」という言葉を大事に扱ってほしいということだったのだと思う。

 私としてもごもっともと思ったので、かしこまってお話を聞いた。しかし一方で、全部を受け入れてしまうと先々のネット中継にとってよくないのではという心配もあった。

 20歳も年上の、竜王戦担当である小田さんに意見を言うのは正直怖い。しかしここは頑張らないといけないのではないか。そう思い、私なりの考えをできるだけ丁寧に伝えることにした。

 小田さんと向かい合っていた時間はどのくらいだったのか、時計など見なかったからよく覚えていない。後から聞いたところによると、周りの人は口を挟めずそれぞれの話もできず、席を立つにも立ちにくい状況だったそうだ。

 ふとした瞬間に沈黙が数十秒ほどあり、小田さんはニッコリと笑ってこう言った。

「俺の攻めを受け切ったのは木村一基以来だよ。さ、飲もうか」

 以前に木村さんとも似たような場面があったそうだ。思いがけない光栄な言葉で、妙に嬉しくなった。

 話は戻って渋谷のそば屋。それぞれの近況から始まり、久しぶりだから出てくる活字にできない昔話がポロポロでてきた。みんな笑いながらたくさんしゃべった。

 お茶がビールに、ビールが日本酒になっていくのは無理からぬところ。私はその後に仕事があったのでお茶で我慢したが、実に楽しいひとときだった。

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