第92回アカデミー賞の受賞式が2月9日(日本時間10日)に行われ、韓国映画「パラサイト 半地下の家族」(ポン・ジュノ監督)が作品賞、国際長編映画賞、脚本賞、監督賞の4冠に輝いた。外国語(英語以外)の映画が作品賞を受賞するのは初の快挙となる。

「パラサイト」では、半地下の部屋に住む貧しい一家と大豪邸に住む富裕層の一家の対比が描かれているが、「映画の中に限らず、いまの韓国社会の至るところで、あまりに極端な格差と無限に競争を強いられる息苦しさが蔓延している」と語るのは、韓国在住のフリージャーナリスト、金敬哲氏だ。ほんの一握りの上位層に入るため、勉強漬けとなっているリアルな韓国社会が分かる金氏のインタビューを再掲載する。(初出:2020年1月20日) 

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映画「パラサイト」主演のソン・ガンホ(左)とポン・ジュノ監督 ©AFLO

「最近、子どもを中学校の頃から、メンタルクリニックに通わせることが流行ってるのよ」

 そう教えてくれたのは、ソウルでも最も教育熱の高い地域、大峙洞(テチドン)に住む母親です。私が韓国の教育問題を取材していて一番の衝撃を受けたのは、この事実でした。

 大峙洞は、ソウルの富裕層が住む江南(漢江の南岸)エリアにあります。江南には名門高校や中学校が集まり、その中にある「大峙洞」はわずか3.53平方キロメートルのなかに1000あまりの学習塾がひしめく地区。いまや韓国中から子どもたちが集まり、最も受験競争が激化している場所です。

韓国でも最も教育熱の高い地域である江南エリア ©iStock.com

 実際に取材したメンタルクリニックの所長は「最近も英語幼稚園に通う7歳の女児が来院しました」とのこと。そのクリニックには、これまで勉強に疲れた5歳から高校生までの生徒たちが訪れています。幼稚園や小学校のころから子どもがメンタルクリニックに通う状態が普通に起こっているのです。

「大峙洞キッズ」のカバンの中身

 生まれたときからほんの一握りの韓国社会の上層に入るために勉強漬けになっている「大峙洞キッズ」たち。そのうちのひとり、小学5年生の男の子のかばんの中身をみせてもらうと、数学のテキストに加えてTOEFL関連のリーディング、文法、単語集などの教科書。さらには『ハリー・ポッター』の英語の原書まで、ぎっしり詰まっていました。彼は、毎日3時間ずつ数学塾と英語塾に通い、数学塾では中学3年の授業を受けているといいます。こうした塾では、学校の内容を遥かに超えた先の内容を教えて、小学生の時から大学受験の準備をしているのです。