人の姿から烏に変身する〈八咫烏(やたがらす)〉族の世界を描くシリーズの第1作で、2012年の松本清張賞受賞作。当時20歳という阿部智里さんの若さも話題となった。

 単行本は初版止まりだったが、いち早く見出した読書家は多かった。明正堂アトレ上野店の書店員・増山明子さんもその一人だ。

「恋愛ファンタジーかと思いきや、ある地点でガラッと変わる。あの人がこんなことを!と心底驚き、鳥肌が立ちました。私は文庫担当だったので、文庫化されたら絶対売るぞと手ぐすね引いて待っていました」

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 その言葉通り、2年後に『烏に単~』の文庫が出ると増山さんは自身の率直な感想をPOPにしたため、なんと1店舗で1400冊以上を売り上げた。他にも自作POPで応援して何百冊と販売する書店が全国で相次ぎ、じわじわと火がつく。風が吹いたのは翌年。第2作『烏は主を選ばない』が文庫化されると、第1作も飛躍的に伸びて3カ月後には10万部を突破。単行本で出ていた第3作『黄金(きん)の烏』と第4作『空棺(くうかん)の烏』にも続々と重版がかかることに。

「2巻まで読んだらもう絶対にハマりますし、キャラクターにも愛着が湧いて、文庫化を待たずに一気買いする方が多いですね。毎作パターンの違う大逆転があって、いつも懲りずに騙され、驚いてしまうんです」

 今月の第3作文庫化に続き、7月には第5作『玉依姫』が登場。躍進目覚ましい注目シリーズだ。

烏に単は似合わない (文春文庫)

阿部 智里(著)

文藝春秋
2014年6月10日 発売

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2014年6月発売。初版2万部。現在14刷16万8000部。シリーズ累計40万部