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まるで自らが生み出した怪物に襲われる博士

 かつて梶山静六は、自民党総裁選で小渕恵三に敗れた後、側近議員たちにこう言う。「小渕内閣は必ず公明と組むぞ。その窓口には野中がなる。あいつがみんな牛耳るんだ。公明票がなければ当選できないから、みんな野中に頭を下げなきゃならなくなる。だからこれから野中が政界を支配する時代がつづく。そうなったら自民党は国民から見放されてしまう」(魚住昭『野中広務 差別と権力』講談社文庫)

野中広務(左)と梶山静六(右) ©深野未季/文藝春秋、JMPA

 この予言の前段は当たる。違うのは野中の支配はさほど続くことはなかったことだ。そのうえ自民党は公明党の集票力を借りながら、公明党が理念とする平和主義とは反対の方向へ突き進んでいく。そして今、野中は戦争経験者として安倍政権を批判する。しかしこの十数年の政局を俯瞰でみれば、野中が始めた自公協力の延長線上に今の安倍内閣があるのであって、まるで自らが生み出した怪物に襲われる博士、そんなSF映画でよくあるような話ではないか。今になって自らが咲かせた花の棘に苦渋の顔をしたところで、その罪は誰にあるのか。

保守王国・茨城が安倍内閣に突きつけるもの

 安倍内閣に対し、地方から反旗を翻す動きもある。文春記事によれば、自民党茨城県連が退陣を迫る動きがあるという。茨城県は自民党の党員数が東京都、神奈川県、愛知県に次ぐ4位の保守王国だが、8月に控えた県知事選では擁立した候補が苦戦中だという差し迫った事情がある。

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 その茨城県連内では、安倍総裁に対して「首相自らの出処進退を含めた抜本的な党体制の見直し」「森友・加計問題の真相究明」などを盛りこんだ“建白書”を提出する計画が持ち上がっているというのだ。

 この茨城県連の会長が梶山弘志で、前述の梶山静六の長男であり後継者だ。彼が野中の生んだ怪物を倒しにかかれば講談のような面白い話となるところだが、実際は煮え切らない態度を取り続けていると記事にはある。なんせ入閣適齢期なのである。

 それをおもえば、なりふり構うことなく、おのれの主張を世に問う松居一代の姿を見る目が変わりはしないか。……しないか。

©共同通信社