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「フルスイング主義」に賛同する

 週刊文春編集長の新谷学氏が書いた『「週刊文春」編集長の仕事術』(ダイヤモンド社)という本を面白く読んだ。文春砲は好きになれないが、新谷氏と週刊文春編集部の商売に対する姿勢は嫌いではない。むしろ大いに賛同する。人間エンターテイメントの「面白さ」(だけ)を追求する。迷いがない。そのためには全力であらゆる手間隙をかける。氏の言うところの「フルスイング主義」である。

 それもこれも、新谷編集長はとにかくそういうことが三度の飯よりも好きなのである。僕はそういう仕事はいくらカネを積まれてもやりたくないが、これもまた好き嫌いの問題である。自分の好きなこと、自分で面白いと思う仕事でフルスイングする。これは仕事に対する構えの王道だと思う。

 いつの時代もフツーの人々は私生活の友としてのエンターテイメントを必要としている。エンターテイメントに飢えていた終戦直後、紙不足の制約の中でも次々に雑誌が創刊され、飛ぶように売れた。

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 それも今は昔、雑誌エンターテイメントにはこのところずっと逆風が吹き続けている。週刊文春の直接の競合相手は週刊新潮を始めとする他の週刊誌だが、エンターテイメントとして見れば、最大の敵は言うまでもなくインターネットである。正確に言えば、インターネットは競合というよりも代替。かつての代替の脅威はテレビだったが、文字情報(と画像・動画の合わせ技)を扱うインターネットは雑誌エンターテイメントにとって数段強力な代替となる。スマートフォンという日常生活に添いまくりやがるデバイスがそれに拍車をかける。

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 客観的な情勢をみれば、週刊誌にとって悪い話ばかり。それでも新谷氏と編集部はあくまでもフルスイングの姿勢を崩さない。時代とメディアは変われども、ようするに作って売っているのがコンテンツであることには変わりはない。コンテンツが面白ければそれでイイ。だからわき目も振らずひたすら面白いコンテンツづくりに邁進する。この姿勢が実にイイ。東映任侠映画の大スター、鶴田浩二の歌のセリフにある「古い奴だとお思いでしょうが、古い奴こそ新しいものを欲しがるもんでございます……」を髣髴とさせる。

 これをお読みの方々の中には、雑誌のように追い風ゼロ、吹きつけてくるのは逆風ばかりという業界で仕事をしている人もいるだろう。逆風をお嘆きの貴兄に申し上げたい。環境や情勢をみれば悪い話ばかりでも、嘆いているだけでは何も始まらない。顧客にとって価値があるものを作って売る。その結果として対価を得る。これが今も昔も変わらない商売の本質である。

 客は環境や情勢にカネを払っているわけではない。商品にカネを払っているのである。逆風の中でも、独自の価値があるものを作れば、十分に商売になりうる。時代の変化に殺されてしまうというが、ようするに商品に本当の価値がなかっただけの話である。