刑事裁判の重要な証拠となるにもかかわらず、警察のビデオカメラのSDカードから事件関連の動画データが消されていた——。大阪地裁で係争中の覚せい剤事件の公判でこうした事実が発覚した。故意か過失か。検察側は“故意”を否定しているが、被告の弁護人は「映像記録の消去は捜査手続きの違法性の隠ぺいが目的」と指摘し、無罪を主張している。実は、SDカードをめぐっては過去にも大阪地裁で似たようなケースがあった。風営法違反をめぐる2012年のクラブ「NOON」事件。内偵時に警察が撮影した画像記録が後に全て消去されていたことがわかったのだ。近年では、警察がSDカードそのものを紛失する事態も全国で相次ぐ。冤罪に直結しかねない映像・画像データ問題。いったい、何が起きているのか。(全3回の1回目/#2、#3を読む)
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強制採尿令状までの「5時間」に何があったのか
「警察がなぜ、SDカードの(映像)記録を消去したのか。それは強制採尿令状を執行する前の違法な有形力の行使を隠すため、そして職務質問に重大な違法性があったからです。(警察は)不利となるSDカードの証拠を故意に消去し、その理由などについても捏造している。まさに臭いものにふたです」
2019年12月18日午前、大阪地裁の803号法廷。最終陳述の場で、覚せい剤取締法違反罪で起訴された被告の男性(61)は用意した書面に目を落としながら、強い口調で訴えた。
弁護人によると、男性は18年5月5日午後、大阪市平野区内の路上で、大阪府警平野署員から職務質問を受けた。署まで任意同行を求められたものの、これを拒否。すると、署員たちは強制採尿令状が出るまでの5時間以上もの間、路上で男性を取り囲んだり、タクシーに乗る際に乗車を邪魔したり、電車内では左右から抑えつけて腕をねじり上げたり。携帯電話による通話も妨害したという。
採尿検査の結果、男性は覚せい剤の使用などで逮捕・起訴された。被告・弁護側は公判で、平野署員がビデオカメラで被告の様子を撮影していた動画データの証拠開示を請求。パトカーの車載カメラのデータについても開示を求めた。強制採尿令状が出るまでの5時間以上もの間、任意の事情聴取にもかかわらず、違法な捜査を強行したことを立証する目的だった。
検察側はいったん、動画データの開示を約束した。ところがその後、「4枚のSDカードに収められていたデータは平野署員が誤って消去してしまった」と前言を翻してしまう。
消去されたという動画データは、検察側にとっても、捜査手続きの正当性を主張するための大切な証拠である。なぜ、そのような致命的ともいえるミスを警察が犯してしまったのか。