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「2030年の世界では人々は週15時間しか働かなくなるだろう」

 

 貧困の解消にとどまらず、ベーシックインカムは仕事に関する私たちの概念を根本的に変える可能性を秘めています。イギリスの経済学者ジョン・メイナード・ケインズは、1930年に書いた「孫の世代の経済的可能性」という短いエッセイの中で、2030年の世界では人々は週15時間ぐらいしか働かなくなるだろうと予言しました。ケインズだけではありません。1950年代から70年代にかけて、ほとんどすべての社会学者、そして少なからぬエコノミストが同じ考えを持っていました。人間の仕事がロボットに移り、労働時間はどんどん少なくなって、「退屈」が社会問題になってくるだろう、と。

フェイスブックやグーグルで“空費”される若い才能

 

 現代社会でもっとも深刻な悲劇の一つは、私たちが数え切れない若い才能を無駄使いしていることです。今、才能のある若者たちはこぞって、金融やマーケティングの世界や、フェイスブックやグーグルのようなネット企業を目指しますし、親や学校の先生もそう促します。給料がいいからですね(笑)。でも彼らは、別の場所で真のチャレンジ、たとえば、ガンの治療法や宇宙船、空飛ぶ車の開発など、もっと社会に新しい価値を生み出す仕事に取り組むこともできたはずです。

 実際には、1980年代以降、労働時間はむしろ増えていきました。ケインズの予想は、なぜ外れたのでしょう。一つの答えは、欲しくもないものを、好きでもない人にアピールするために買わされ続ける消費主義でしょう。でも私はもう一つの要因のほうがより重要だと思うようになってきました。それは、人々が「くだらない仕事」に縛り付けられているという問題です。

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 フェイスブックに勤めている、数学科出身のエンジニアはこう述べています。「同じ世代で最も優秀だった連中が今、『どうすれば皆にネット広告をクリックしてもらえるか』を一日中考えている」。イギリスの世論調査では、37%もの人が「くだらない仕事」――給料はいいかもしれないけれど、自分自身では意義や価値をまったく感じられない仕事に就いていると回答しました。企業弁護士、マーケティングや金融の仕事をしている人々が、自分自身の仕事についてそういう意識を持っているんです。