講演の後は、慶應義塾大学の岡田正大教授とのパネルディスカッション、及び来場者との質疑応答が行われた。
岡田: ベーシックインカムとして支給する金額はどのくらいが適切でしょうか。
ブレグマン: 国によって異なると思いますが、ちょうど貧困から抜け出せる水準をイメージしてください。ちょっと働いて支給額に上乗せしたいな、と多くの人が考えるぐらいの金額というとわかりやすいでしょうか。
岡田: 日本の生活保護のような、福祉給付との違いはなんですか。
ブレグマン: ユニバーサル・ベーシックインカムは無条件に、全員に支給されます。収入の高低、就労しているか否かといった条件は一切問われません。生活保護のような特例的な支援ではなく、国民の権利です。受け取ることを恥と思う必要はありませんし、支給を受けるために書類をたくさん提出したり、受給資格をクリアしていることを証明したりする必要もありません。生きていて、真正な公的身分証明書があれば、誰でも支給を受けられます。
欧州・米国で始まっている“ユートピア創出”実験の成果は
岡田: フィンランドで今年の1月から始まったベーシックインカムの実験は、日本でもニュースになりました。その後の推移について、何かお聞きになっていますか。
ブレグマン: 実験はまだ始まったばかりですが、プロジェクトの主任研究者は、すでに参加者のストレスレベルの低下がみられると語っています。ただ最終的な結論は、実験の終了(2018年)まで待つ必要があります。
岡田: 本格的にベーシックインカムを導入するには、公的ファンドなどの形で財源を確保する必要があると思いますが。
ブレグマン: その通りです。一方で、費用対効果という見方も必要だと思います。医療費の増大や犯罪率の上昇、子供のドロップアウトの増加など、貧困のコストは安くありません。アメリカ・ノースカロライナ州の先住民居住区で実施された、事実上のベーシックインカム制度の事例では、1人当たり8000ドルから9000ドルの給付に対し、生活状況の改善で節約できた公共支出の額は1人当たり1万ドルを超えていました。