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松田優作の死から30年……崔洋一監督が116分間の「メモリアル・ライブ」を蘇らせた理由

「だんだん僕自身も死の世界に近づいているのは間違いない」

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お互いの部屋を覗き合って……

 ホテルに着いたら、お互いの部屋を覗き合うわけよ。それで最初に優作が俺の部屋へ来て、「おい、お前のはどんな部屋だよ」ってパッと開けたの。そしたらむくれるんだよな。「俺んとこにはこれ、ないぞ」って。ふっと見たらサイドテーブルに、ウェルカムドリンクのシャンパンが置いてあったわけ。ボトルごとね。そしたら「俺のところにシャンパンは来てない」と大騒ぎになっちゃって(笑)。

 

 すると今度は、優作が「俺の部屋に来いよ」と言うんで、見にいって。で、優作はね、彼の“ご自慢”を見せたかったんですよ。それがテントのサウナだったんです。ホテルにサウナはなかったんで、わざわざ日本から簡易サウナを持ってきてたんだ。それで電源を入れて「どうだ、いいだろ」って。全然いいとは思わなかったけど(笑)。そういうお茶目なところがあるんだよね、彼には。

松田優作が作ってくれた“普通の”焼きそば

――仕事について語り合うこともありましたか?

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 夜中、僕の家にいきなり来て、熱っぽくハリウッドを語っていたことは1度や2度ではなかったですね。で、いずれは家族を連れて、アメリカに移住することを本格的に考えてました。西海岸か東海岸かという悩みはあったようですけど。でも、たとえば優作が『ブラック・レイン』のオーディションを受ける、といったことは、僕には関わりのない世界のことでした。だから、やっぱり独特の距離感はあったんですが、お互いに家を行き来することは多かったですね。よく焼きそばも食わされました。

――松田優作さんが焼きそばを作ったんですか?

 「どうしても俺の作った焼きそばをお前に食わせたい」って、嘘っぽいことを言うんだよ、また(笑)。で、食べたら必ず「うまいだろ? どうだ、うまいだろ?」って。

 

――何か特徴のある焼きそばだったんですか?

 いや、これが普通なんだ(笑)。時々電話がかかってくるんですよ。「飯作るから来いよ」って。それで家に行ったら、優作と龍平と翔太が、親子3人で居間で正座してるのよ。何してるのかなって思ったら、アニメを見てるわけ。そこが優作だなと思ったんだけど、彼は人様が作ったものを見る、楽しませていただくときには、はしゃいで見るのではなくて、きちんと正座して見るべきだと。でも、親子3人で正座して夕方のアニメを見てるというのは、微笑ましいんだけど、ちょっと異様だよね(笑)。