「何らかの異常が発生する可能性を否定することはできない」
石川側は、自動車工学の専門家から「仮に、『吸入空気量を正確に判断できない』の中に、過大に算出した空気量をエンジンに吸入させてしまうことも含まれるとすると、車が暴走するおそれもあるということになる」との証言を得たとし、「同タイプのエンジン制御用コンピュータで異常が生じたのだから、事故車両のエンジン制御用コンピュータにも何らかの異常が発生する可能性を否定することはできない」と指摘する。
さらに、トヨタは16年12月16日付で、レクサスNX200t、NX300hタイプの計約3万7000台について「ブレーキ制御コンピュータにおいて、制御ソフトが不適切なため、ブレーキホールド状態から駐車ブレーキ作動状態に切替えできないことがある。このため、ブレーキホールドで停車中、シートベルトを外す等の操作をすると意図せず車両が動き出すおそれがある」として「全車両、制御ソフトを修正する」とのリコールを国交省に届け出ていた。タイプやグレードは違うが、これは、石川の事故の状況と酷似しているように見える。石川側は、これらの事実についても上申書に盛り込んだ。
供述や状況証拠よりも優先された電子データ
しかし、東京地検は、石川側の上申書に応えることなく、3月22日、石川を過失運転致死と過失建造物損壊の罪で起訴した。起訴後に記者会見した東京地検交通部幹部は、「320メートルの暴走は長いが、なぜ止まれなかったのか」との記者団の質問に対し、「なぜ暴走(した)かはお答えできない。その間、アクセルペダルを踏み続けたということ。なぜと思うかもしれないが、事実として踏み続けたということ。最終的に店舗に突っ込んだ。そこに向かって進行していった」と語った。
検察幹部は筆者の取材に対し、「左足は、(アクセルペダルに)およそ届かないわけではないし、アクセルペダルの裏側に強く踏み込んだためについたとみられる痕跡がある。問題は踏んだから発進したのか(どうか)だけ。どこかでは踏んでいるのではないか」と話した。
検察も、警察と同様、大先輩の石川の記憶にもとづく供述や状況証拠より、事故車に搭載されたEDRなどの電子データを信用した。