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レクサス暴走致死事件 元特捜検事が「左足でアクセルを踏み続けることは可能だったか」

元特捜検察のエースとトヨタの法廷闘争 #2

2020/02/18
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左足でアクセルペダルを踏み込むことは可能だったのか

 石川の右足がドアに挟まれて使えなかった点は双方とも認めている。公判の争点は単純明快。石川が、左足でアクセルペダルを踏み込むことは可能だったのかどうか、だけだ。

 弁護側は、公判前整理手続きで、石川が事故車と同じ座席位置に座り、左足でアクセルペダルを踏み込めるかの実況見分を裁判所が行うよう求めたが、検察側が反対。裁判所は、弁護側、検察側双方が、それぞれ独自に運転状況の実況見分をした記録を提出させ、ともに証拠採用することを決めた。石川は改めて、事故車と同型車に座り、検察側も、石川と背格好の似た人に座らせたという。

トヨタの高級車ブランド「レクサス」のハイブリッドモデルLS500h ©AFLO

 17日の初公判で、検察側は「本件車両は、センサー及びコンピュータ内部の制御CPUなどに異常が出た場合、燃料や電気の供給が遮断・抑制されるよう設計されており、車両の構造上、制御CPUなどの異常によりエンジンやモーターの回転数が異常に上昇する(暴走する)ことはない」と主張。

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 これに対し、石川側は、検察側が強く踏み続けた証拠とする「衝突4.6秒前からアクセル開度はずっと100だった」とのデータについて、「衝突1.数秒前に失神した。筋肉は弛緩しその後も踏み続けられるわけがない」と反論した。

特捜エースの波乱万丈な検事人生

 石川の検事人生は、波乱万丈だった。中央大卒。1963年司法試験に合格し65年検事任官。76年のロッキード事件で全日空副社長の取調べを担当し、頭角を現した。

 特捜部長時代の90年には、バブル崩壊後の大型経済事件の走りとなる仕手グループ「光進」による相場操縦事件を摘発。同グループ代表の仕手戦に便乗して株取引で儲けた稲村利幸元衆院議員の脱税事件、代表への住友銀行行員らの浮き貸し事件などを摘発した。

 金丸信元自民党副総裁の5億円闇献金事件の罰金処理が「甘すぎる」と特捜部に批判が集中した93年、最高検検事だった石川は、旧知の国税幹部が持ち込んだ金丸の蓄財資料をもとに脱税で捜査するよう最高検首脳を説得。特捜部の金丸逮捕を演出した。

ペンキが投げ付けられた検察庁の石造表札や壁。金丸信氏らの刑事処分に不満を持った男の犯行だった ©時事通信社

 不良債権処理をめぐる大蔵省(現財務省)の金融失政に批判が集まっていた97年に東京地検検事正に就任。盟友の大蔵・国税当局幹部と特捜現場の板挟みになりながら、金融機関の接待漬けになっていた大蔵官僚を収賄容疑で摘発する捜査を指揮した。だが石川は、この大蔵汚職の捜査方針をめぐり、法務省幹部らと対立。99年4月、事実上、中央から追放される形で福岡高検検事長に転出。2001年11月、名古屋高検検事長で退官。その後、弁護士を開業した。