本を買ったら、まずカバーをはずしてみてほしい。折り畳まれた上端を開くと、作中の神木、マテバシイの葉と実(ドングリ)、それに各話の登場人物(神さま含む)9人が忽然と現れる仕掛け。そのままポスターにもなる、なんとも楽しいデザインです(装画・中川学/装幀・新潮社装幀室)。
どーんと大きく描かれている下ぶくれの人、DNA柄の派手な赤シャツを着た男は、実は人間じゃなく、千年以上前からお勤めしている縁結びの神さま。神々の位でいうとそれでもまだ下っ端なので、願いごとを叶えるにもいろいろ苦労がつきまとう。最近の人間は言霊が浸透しにくいのに厳しいノルマを課され、期末には収支報告書を求められ、さらにはよその神社の応援にも駆り出される。
そんなドタバタの日々を全四話で描く本書は、いわば、神さま版お仕事小説。ほのぼのしたタッチとゆるい笑い、吉本新喜劇ばりに濃いキャラと松竹新喜劇流のホロリが特徴です。
第一話「はじめの一歩」は、付き合って5年も経つのに一向に進展しない同期入社カップルの話。もともとは、2010年に放送された「世にも奇妙な物語 20周年スペシャル・秋」のために書かれた短編で、ドラマでは縁結びの神を伊東四朗、サポート役で付き添う交通安全の神(カバー裏の痩身眼鏡スーツ男)を遠藤憲一が演じた。人間カップルの男の方(大野智)は、一歩一歩段階を踏まないと先に進めない堅実・慎重タイプで、「まず、はじめに」が口癖。女の方(田中麗奈)はそれに業を煮やし、まずその口癖を直せと詰め寄るが……。この二人を神さまがどう結びつけるかが読みどころ。
第二話「当たり屋」では、神さまが神宝の袋にストックしていた言霊の源7コが持ち去られ、よりによって当たり屋の男のもとへ。結果、男が何をやっても大当たりしはじめる。この珍騒動が、いったいどんな縁結びにたどりつくか?
第三話「トシ&シュン」は、作家志望の男と女優志望の女のカップルが主役。題名のとおり「杜子春」を下敷きに、意外なかたちで“心”が試される。
ラストに置かれた表題作は、震災がからんでぐっとシリアスな展開に。神社が倒壊し神木が折れて、われらが神さまは絶体絶命(?)のピンチ。だが、意外なところから救いの手が……。
と、多少のハラハラはありつつも、主役が神さまだけあって、安心して楽しめる円熟の一冊。どこかで見たようなビルや懐かしいあの子が出てくる、万城目ファンには嬉しいサービスもあります。
まきめまなぶ/1976年大阪府生まれ。2006年『鴨川ホルモー』でボイルドエッグズ新人賞を受賞し、デビュー。『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』『とっぴんぱらりの風太郎』『悟浄出立』『バベル九朔』ほか、エッセイ集『ザ・万字固め』など著書多数。
おおもりのぞみ/1961年高知県生まれ。書評家、翻訳家。責任編集のSFアンソロジー『NOVA』全10巻で日本SF大賞特別賞。